第11話 できることは side武尊&紘夢

「こんなの、早く止めないと……」


「え、絵奈!」


絵奈は行ってしまった。

頭が真っ白になる。

……どうしよう。

先生を呼んでもあの二人がいい子ぶってなかったことになるだけや。

こうなったら……確実な証拠を残すしかない。


ほんまはだめやけど、スマホを使って動画を撮り始める。

もちろん、ギリギリのところで。

バッテリーは大丈夫やし、容量もある。

絵奈の最初の友達、藤宮さんが被害者だという証拠を残すためなら俺は生徒指導になってもいい。


見た感じあの人は先生の前になるといい子ぶってこの騒動をなかったことにして、いじめが続くことになる。

俺らが見たってだけじゃ証拠にならん。


それに、絵奈が悲しむのは見たくない。

絵奈には……笑っててほしいから。



画面を見ると、奥からあーえっと、森下さんか。

いつの間におらんくなったんかは知らんけど。

森下さんがバケツを持って出てきた。

……まさか。


「華音、早くかけてあげて」


「はーいっ」


……嘘やろ!?!?



ジャバーン!



「ももちゃん!」


絵奈が慌てて水をかけられた藤宮さんに駆け寄る。

びしょびしょになってる。

……俺も行って止めておけばよかった。

どうしようもない後悔。


「絵奈?」

「あ、絵奈」


あの2人が絵奈に気づく。

こんなん許せん。

いじめやろこんなん。


「何でこんなことするの!?」


絵奈が怒る。


「あれ、絵奈知らない?こいつ、モデルやってるんよ」


そうやったんや。

どうりでどこかで見たことある名前と雰囲気やなって思ったけど、たしか『Stella』って名前のファッション雑誌の専属モデルのはず。

何で知ったかは覚えてない。


「だからか知らないけど、こいつ調子乗っててさあ、めっちゃむかつくくない?」


「うちはモデルですって、宣言してるみたいできもいよね」


スマホを持つ手が震える。

むかつくんはそっちの意味不明な偏見理論と藤宮さんと絵奈を傷つけてることやけどな。


「てかそんな状態じゃモデル無理でしょ」


「ほんと!そもそもブスだし」


甲高い声で笑う。

うわ……普通に引くわ……


けど、俺は動画を撮ってるだけで絵奈の助けになってない。

ほんまはさっさと先生呼びたいところやけど……先生を見た瞬間、立場が変わって不利になることが怖い。

それでまたひどくなるだけ。

……だからって見てるだけなん嫌や。


「なんか言いなよ、ねえ、モデルさん?」


「あはは!ほら、絵奈も黙ってないでさあ」


絵奈が立ち上がった。

2人がさらに笑う。

……いや、違う。

勘違いしてる。


「2人とも、自分たちが何してるかわかってる?」


え、と2人は固まる。


「ももちゃんがモデルをして何が悪いの?普通に考えてすごいって思わないの?」


しーん、と静まる廊下。


「モデルになるの大変だって2人は分かってて言ってる?ももちゃんはモデルになりたくてずっと努力してきたはず。オーディションとか、スタイル維持とか。頑張ったからモデルになれたんだよ。ももちゃんはいっぱい努力して、大きな夢を叶えたんだよ!?それをバカにして、ももちゃんにひどいことするの、最低だよ!!」


よく言った、絵奈。

少しだけすっきりはした。

けど、森下さんが絵奈を睨む。


「なに、」

「やめて、華音。絵奈、もう一つ言わなきゃいけないことがあるの」


急に加藤さんの声色が変わった。

……聞きたくないわ、どうせキャラ変わるんやろってもう変わってるけど。

今の間に先生を呼ぼう。

スマホを後ろにつけてるリングで横に固定する。

よし、いいぞ!

このまま行こう。


立ち上がり、階段の方を見ると見覚えのある小柄な男子が階段を上がってきたところだった。

うわあ、タイミング良いというか悪いというか何とも言えん……!!


「……武尊?」



委員の集まりが終わった。

雨が降ってたから置き傘を取りに行こうと、教室に戻る。


あれ、階段に誰かいる。

何かを……あれって、スマホだ。

校内は基本使えないのに普通に使ってる。

しかも何でか立ててる。

……まさか、盗撮?

止めようと、階段を上がるとそいつはこちらを見た。


「……武尊?」


武尊だ。

昨日、絵奈のことを言われたから正直会いたくなかった。

俺が悪いんだけど。


武尊は複雑な表情。

けど、すぐ真顔になり、階段を降りる。

……な、何だよ。


「紘夢、協力してくれん?」


「は?」


盗撮の協力なんて誰がするかよ。


「静かにしてな、向こうの廊下で絵奈の友達がいじめられてるねん。とりあえず見て確認したら先生を呼んでほしい、静かにな」


……絵奈、の友達?

絵奈という単語に反応する俺、自分でもきもいって思うけど、武尊は真顔。

気まずいけど、いじめなら放置するわけには行かない。


静かに階段を上って、廊下を覗く。

あれは……加藤と、森下?

最近絵奈に絡んで、藤宮さんを仲間外れにしてる陽キャ。

絵奈がなぜかびしょ濡れの子を守るように立ってる。


絵奈の友達って、武尊が言ってたな。

……藤宮さんか。


「自分だけ受かって平気そうにして、落ちた人のことも何も考えないで自分だけ楽しそうにして、調子に乗って……何なの本当に!?最低!!」


「だからって人をいじめるの?これ、意地悪とか嫌がらせどころかいじめでしょ。嫉妬なのか知らないけどやっていいこととやっちゃいけないことがあるよね?

嫉妬で人を平気で傷つけていじめる方がずっと最低だよ」


何の話か知らないけど絵奈が大声で反論してるのはびっくりした。

けど……状況からして、加藤は藤宮さんのことが気に入ってない。

だから武尊の言う「いじめ」をしてる。


あ、森下がバケツを持ってる。

てことは、あいつがあのバケツに水を汲んで藤宮さんにかけた、ということか。

取り巻きにやらせるとか、加藤も弱いんだな。

それとも森下だけがやったと先生に言うのか。


俺は足元のスマホを見る。

……まあ、これが切り札になるから意味はないか。


とりあえず階段を降り、武尊のところに戻る。


「状況は分かった。で、武尊は動画を撮りつつ絵奈に何かあったら自分が駆けつけて、その間に俺が先生を呼ぶと」


「さすがやな、紘夢。急に面倒なことさせるのは申し訳ないけど頼んだで」


相変わらずの真顔。

まあ、今は俺らしかいないから仕方ないんだけど。


「う、」



「嫌……嫌……」



絵奈の声が聞こえた。

武尊も聞こえたらしく、慌てて(けど静かに)階段を上った。

……何だよ今度は。

武尊の下から覗く。


絵奈が……頭を抱えていた。

……絵奈!?


「かわいそー絵奈。絵奈こんなに可愛いのにね。絵奈をいじめたやつ最低だよ、ほんと」


加藤が絵奈の顔を覗く。


「この高校に絵奈をいじめたやつがいるの。絵奈、またいじめられるの嫌でしょ」


俺の脳内にあの出来事がフラッシュバックした。

昨日、武尊に言った絵奈の過去。


が、この高校に……!?


武尊の表情は見えない。

きっと……怒ってるんだろうな。

武尊が引っ越してる間にあんなことがあったんだから。


「だから、うちらのグループに入りなよ。いじめっ子に会ったらうちらが守ってあげるから」


「そーそー。だからいい子ぶらないでいいよ」


「そいつ、友達いないから可愛い絵奈を利用してるだけだよ」


「えー!だとしたら最低じゃん!」


あいつら演技へたくそだなあ。

本心丸見え。

絵奈のことは守らないし、藤宮さんと同じ目に遭わせるだけ。


……絵奈が可愛いのは事実だけど。


「絵奈?うちら友達だもん。入ってくれるよね」


絵奈はそんなバカなことしない。

けど、断ったら絵奈は……!!



「入らない!」

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