第3話 生徒会長

「絵奈、おはよー」


「はよ」


朝、いつも通り登校していると後ろから武尊と紘夢が話しかけてくれた。


「おはよう、武尊、紘夢」


「なるほど。絵奈はこの時間帯に登校するのか」


紘夢がぼそりとつぶやく。

たしかに、ここで会うのはちょっと珍しいかも?


「ほんまやな。今日はたまたま俺が遅れちゃったから俺らラッキーやなっ」


「ラッ、ラッキーなのかアンラッキーなのか……俺は待たされたんだけども」


「ごめんって。弟がなんか無いー言うて一緒に探してたんよ」


え、優しい。

私、妹とか弟いないからわからないけど、探してあげるの優しいな。

てか、武尊弟いたんだ?


「何を探してたんだよ」


「体操服」


「あるあるじゃん」

「あるあるだね」


3人で笑ってしまった。

弟くん、可愛いな。

会ってみたいな。


「紘夢はお姉ちゃんおるやろ?最近どうなん?」


紘夢のお姉ちゃん!

年だいぶ離れてるんだけど、ものすごく綺麗な人なんだよ。


「……普通」


「普通って何やねん」


「仕事行って、夜遅くに帰ってくるからあんま話さないんだよ。土日くらいしか話さない」


「そっか。兄弟姉妹がいるって良いなあ……」


「「そうか?」」


2人の声が揃った。

あはは、タイミングばっちり。


校門を通り過ぎようとすると、私たちに向かって前から誰かが歩いていた。

誰だろう、男の先輩、かな。

すれ違いそうになると、


「おはようございます」


と、挨拶をされた。


「「「おはようございます」」」


流れで返しちゃったけど、誰だろう。

その人をよく見ようとすると、紘夢がびっくりした顔で立ち止まりながらその人を見ていた。



「き、木村先輩!?」



紘夢のちょっと珍しい大きい声。

き、木村先輩ってどこかで聞いたことあるような……


「あはは。ドッキリ大成功!」


無邪気に笑う男の先輩。

身長は武尊よりちょっと低くて、爽やかだけどきれいな顔立ち。

制服をきっちり着てる。


「驚かすだけのためにここに来たんですか」


紘夢がちょっと怒ってる。


「まさか。生徒会の仕事だよ」


……ん、生徒会……?

生徒会の……木村先輩……


あっ、思い出した!!


「せ、生徒会長!」


「そう。俺が生徒会長の木村です」


「絵奈、知ってたんや……っていうか、選挙でとっくに知ってたか」


昨日の朝下駄箱の近くでなんか騒がれてた人。

女子たちに囲まれてたのはこの人だったんだ。

よく見たら腕に「生徒会」って書かれた腕章をつけてる。


まあ、忘れかけてたけどね……あはは……


「って、俺が敬語なのも変か」


「それ、俺も思いました」


武尊がちょっと笑って言う。


「君は……塔山くん、だったよね。専門委員会の時にいた」


「そうです!1年A組の塔山武尊です!」


専門委員会……ああ、武尊が委員長だからか。

進行がこの人だったのかも。


「武尊、ね。よろしく。俺のことはキムか、将也まさやでいいよ」


「木村」だからキム。

良いあだ名だなあ。


「じゃあキム師匠で!」


「し、師匠!?」


「はい。俺にとっては師匠なので」


「あはは。いいよ、キム師匠で。なんか面白いや」


木村将也先輩。

すごく気さくな人なんだな。

生徒会長って、どうしても真面目で話しかけにくいイメージがある。


「君は初めまして、だよね」


木村先輩の視線が私に向いた。

そして、優しげに微笑む。


……わっ、綺麗な笑顔……!


「あ、えっと、西園絵奈、です」


「よろしくね。将也って呼んでくれたら嬉しいな」


「あ、はい……将也、先輩」


「ありがとう。じゃあ俺も絵奈って呼んで良い?」


「は、はい」


流れで返事しちゃった。


それにしても綺麗な人だな。

話しやすいし、フレンドリーだし。

別の雰囲気で理想の生徒会長って感じ。

きっと勉強も運動もできる人なんだな。


「見て、木村先輩だよ」


「ほんとだ!え、ツイン王子もいるじゃん!」


「ラッキー……てか、この光景美しすぎる……」


「てかあそこにいるの1年の西園さんじゃない?」


あ……目立ってる。

そ、そりゃ、こんなすごい人といたら目立つよね!

そろそろ抜けたい、かも……


すると、将也先輩はつぶやいてる女子の先輩たちに微笑んで手を振った。


「「「きゃー!」」」


悲鳴が上がる。

た、たしかに今のは良い意味で心臓に悪いかも……!


「キム先輩、紘夢と知り合いなんですか?」


「ああ。中学の時から知り合いなんだ。ね、紘夢」


「はい。委員会で知り合いましたよね」


「そうそう。懐かしいね」


ってことは、将也先輩は宮津中学校出身、なんだ。

少しの間だけ私と同じ中学だった、みたい。


「キムー!ちょっとこっち来てー!」


誰かが将也先輩を呼んだ。

生徒会の人、かな。


「あ、はーい!ごめんね、そろそろ行くね。またあとで話そう」


「「はい」」

「はい、師匠」


将也先輩はそのまま走って行ってしまった。

その姿でさえ綺麗だ。

さすが生徒会長……


「俺らも行こうか」


「うん」


私たちは教室へ歩き出した。


「キム先輩、良い人やな」


「ね」


わかる。

でも、ちょっと遠い存在の人って感じ。


「あの人、全然変わってないや。生徒会長に立候補した時はびっくりだったけど」


「あれ、そうなん?」


「うん。中学の時は別の委員会の委員長だった」


中学の時も生徒会に入ってたんだ……!

本当にすごい人なんだなぁ。

そりゃ人気だし、みんなの憧れだよね。

武尊なんて師匠って呼んでるもん。



私も、将也先輩みたいに堂々としてて、みんなから尊敬される人になりたいな……

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