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___アメリカ中央情報局独立調査部門SSA本部
「局長。頼まれてたデータ持ってきましたよ。…局~長~」
「………うぅん……」
「勤務中に居眠り発見。気ぃ緩みすぎじゃないですか?」
勤務中、事務机に突っ伏して堂々と寝ていた男は、一重の細い瞼を開けて、重苦しそうに体を起こす。ボサボサのままの黒髪を搔き、無精髭の生えた日本人顔を擦ってからイタリア系の若い男から資料を受け取る。
「いやぁ…奇妙な夢を見た。王様の格好をしてさ、恭一君に仕事を言いつけるんだ…。すっごい嫌な目で睨まれて、恥ずかしくないのかって怒られたけど…」
「なんで部下が行方不明だって言うのにそんなファンシーな夢見てられんですか」
「全然ファンシーじゃあないよ…。顔の横に槍まで飛んできてさ。どんだけ恨まれてるんだろって」
仕事押し付けすぎたかなぁと真顔で言いながら首を鳴らすジュンフェイに、今更恭一への業務過多に気づいたのかと彼の部下であるエージェントは呆れる。それを日々こなしている恭一への恐ろしさも、同時に思い出して身震いしていた。
「先輩達、マジで船もろとも消えちゃったみたいで、生存確実に厳しいみたいですし」
「大丈夫、そのうち、ケロッとして帰ってくるさ」
「なんでそんな事言えるんですか?船の残骸と人間の死体らしい一部が出てきてるって言うのに」
「ジュリオは、二人が死んでいると思ってるのかい?」
「海のど真ん中っすよ。しかも、バミューダトライアングルの」
年若いエージェントのジュリオはジュンフェイの机に背を向けて寄り掛かると、自身の先輩でもある恭一と弁慶の生存は絶望的だと言い、二人がいない事務所は、風通しが良すぎて落ち着かないと窓から見える黄昏の夕陽の光を眺める。
傍らに置いていたメガネをかけたジュンフェイは、二人が消息を経ってから二週間は経つ事は分かっていたが、二人の事を死んだとは思っていないようだ。
「案外、どっかの島で呑気にやってたりしてね。人魚姫でも見つけて連れて帰ってきてくれたらいいなー」
「局長の頭ん中、どんだけファンシーなんすか。てか、あの人達が女の子ナンパとか絶対無理なのに、人魚姫て」
「ファンシーじゃないとやっていけないよ。普通の女性で全然なびかないんだよ?じゃあ人外に頼るしかないじゃあないか」
「先輩の性癖どうなってんすか。フツーに考えて、立たないだけじゃないっすか?」
「あるかもね。昔、世話役だった人が目の前で亡くなって、かなりショック受けたみたいだから」
そういうトラウマがあると機能不全に陥ることもあるらしいが、そういう事は本人のいるところで口に出さないようにとジュンフェイは一応注意してから、書類に再び目を通し始める。
「まぁ、既に付近の捜索も進めている。ジュリオも、職務に集中していたまえ。私も、本家に恭一君がMIAしたなんて報告はしたくないし、見つかってくれなきゃ困るんだよね」
「恭一先輩って、金持ちのボンボンなんでしょ?なんでアメリカでCIAのエージェントなんてやってるんですか?」
「家出だよ。遠縁の私を頼ってこっちに勉強しに来る名目の家出。どうするつもりだったのか知らないけど、日本に帰る気も更々なかったみたいだったから、大学出てそのままうちで働いてもらうことなったんさ」
「へぇー、やっぱ何でも出来ちゃう系は、外人でも諜報機関に入れちゃうってことなんすね。コネ入局の平和主義な日本人だからって舐めてましたけど、平和主義どころか、戦闘狂のぶっ壊れっぷりで、殺されるかと思ったわ」
「あれは君が悪いよ」
過去に起きたジュリオと恭一のトラブルを思い出し、ジュンフェイはそう嗜めると、分かってますってとジュリオは返事を返す。
「ところで局長。今更それ、引っ張り出してどうしたんです?先輩が追ってたやつとなんか関係あるんですか?」
ジュリオがジュンフェイに渡した資料の中身。ジュンフェイは、資料と共に、それに添付されていた写真を眺める。
いくつかの現場証拠写真が大半だったが、ジュンフェイが目を向けていたのは、小さな子供が二人と一人の女性が写った家族写真。
その顔だけが焼き焦がしたように判別出来なくなっており、ジュンフェイはメガネの奥に秘めた虚ろな黒目の瞳で眺めていた。
「もしも、恭一君が掴みかけていたものが予想通りのものであったとして、彼が失敗していたとしたら…私が、全力で壊さなければいけないものだからね」
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