原初《エバ》 澄明の守護者

作者不詳

遥か深い深海の底で


人魚の恋が泡となって終わったように。


私の身もまた、泡になり消えるのだろう。




 深海の闇が深く染まり、知られていることわりに深く隠された世界。空と似た膜によって守られた世界で、膜の外へと繋がる神秘の海の側へ近寄る影があった。


 ブーツの底が砂浜に埋もれながら海に近づいていく彼女は、足に打ち寄せた穏やかな水面の中に、自分の姿を見る。



 長い髪をほとんどフードの下に隠し、自らの赤い瞳と浮かない表情を眺め、決心を固める。

今から"禁忌"を犯すのだと。



「私は王としても、母親としても、失格ですね」


 遠い海の先を見て、そう呟く。


「使命に目を背けてこんなことするなんて、きっと、いつか罰が下る事でしょう。…それでも、私は…」



 母なる海の中に徐々に体を沈めていく彼女は、やがて全身を水の中へと沈めた後、胸に下げた青い結晶のペンダントを手で包み込み、祈った。



____せめてその前に、もう一度だけ貴方に会いたい。私を私にしてくれた貴方に。


ただ一途に願ったその願いを、彼女の中にいる者は聞き届けたのだろうか。


代償に何を取られるのだろう。


声も形もなく、あの人を想う罪で、息絶えるのだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る