第14.5章 切り落された憎悪のカタチ

 

【ようやくお前は我らのモノ】【憎悪は尽きることなし】【厄を纏いて共に堕ちようぞ】



「『滅』」


 そう言霊を一言唱えながら投げ放った紙の一枚一枚がグェイの体へ貼り付き、次々に破裂する。肉片が飛び散り、やがて黒い液体へと変わる。


「『参れ、牛若丸』」


 恭一の唱えた言霊と共に、恭一の手に牛若丸と名のついた刀が現れる。


大妖怪烏天狗の打って鍛えたとされる妖刀は、漆黒の刃を持つ日本刀。それを片手で軽々と持ち、向かってくるグェイの群れを切り伏せる。

欲していた殺戮の衝動に目覚める。這いつくばり、卑しくも集る亡者のなれ果ての肉を裂き、臓物のように散らす黒い液が散りみだる。


 ただの人間には思えない立ち回りと素早さ、彼がグェイの残骸とも言える黒い液体にまみれながら愉しんでいるかのような姿に、女王ニュイワンは思わず、目を見開いていた。



「フォア…撮影師シェイニィロウシが"撮影"しないと傷をつけることも出来ないグェイを斬るとは。真奇怪妙な事、話に聞いた以上の男だ」



ある程度蹴散らした恭一は、目に赤い光を宿し、刀についた黒い液体を振って払う。


【殺せ】


「殺す…!」


【目に入るモノ全てだ】


这是一个有趣的人これはまた面白い奴がいた


 呪いに突き動かされた恭一の闘争本能に喚起するように、女王ニュイワンもまた歓喜の感情を露にし、素早い動きで斬りかかって来た恭一の刃を、大鎌は火花を散らして受け止めた。


【殺せ、殺せ!首を切り落とし!腸をえぐり出せ!】


「殺す…殺すっ…!」


「まさか、こうなるとはねぇ…面白いねぇ…!」


 恭一の素早い動きと迷いのない振るいにも女王ニュイワンは自らを護りながら避け続けた。隙を見せない恭一の動きを浮かがうものの、呪いに突き動かされているということを見切っていた。


 チャイナドレスの裾が切られ、女王ニュイワンも恭一の腹を目掛けて鎌を切る。恭一も避けた為に服だけが切れた。そしてそこで、女王ニュイワンは何かに気がついて、大きく身を反らして彼から離れる。


 避けたつもりだったが、恭一の振るった刃の余波で腕や首などの皮膚を斬られていることに目をやり、表情を変えず、艶めく白い肌から流れる血を指で触る。。



「殺す……何もかも……」


「ふむ…殺すにはなんか惜しいけど、やるしかないのかねやっぱり」



女王ニュイワンがそう呟いた瞬間、下から現れた黒くしなやかにうねる尻尾か触手の様なものが、恭一の片足と右脇腹、左肩を貫く。


 恭一はその激痛と、反射的に口から唾液と共に血を吐いた。

床を覆うような赤い水に混ざり合うように落ちていく自分の血を、理性の消えていた目が捉えていたが、それでも、呪いの衝動は止まらない。


手の中に仕込んでいた紙を女王ニュイワンに向けて放つも、その呪法は彼女の持つ鎌によって斬られて防がれた。


 体はそれでも動こうとした。謎の触手に体を貫かれても、骨が砕かれても内蔵が抉れようとももがく。そして表情はまだ愉しんでいた。恭一の中に眠っていた本能が、まだ戦いを望んでいる様子を、哀れむように女王ニュイワンは眺めていた。



「悪いね、やっぱり殺さなきゃ。話に聞いた通り以上で殺すには惜しいが、その呪いを止めなくちゃいけない」



そう告げた彼女とその目の前に、再び触手が生えた。鋭い切っ先を向けられた時、恭一は一瞬、理性を起こされた。



_「…恭一!…恭一!起きろ…思い出せ!呼べ!」



 守護天使の声が、恭一を呪いの衝動から引っ張り出した。




ー「ここで死ぬのは許さないよ恭一…ここは望めば全て現実になる。これ以上望みを出すな。別の事を強く、求めろ」


 思い出せ、そして呼べ。その言葉が本当は何を意味しているのか分からないまま、最初に思い浮かべたのは、アイテルの顔だった。



『私を見て。大丈夫』



アイテルが恭一の手を握り、頬を暖かな手で撫でてくれた時の事を思い出す。

女性でしかも他人である人間が自分の手を握って、安心させるように言葉をかけてくれたことは一度もなかった。


初めてでどう反応したら良かったのかも分からない経験であった。


『落ち着いて。手を握っていてください。こうしていれば、大丈夫ですから』


 無愛想な上に冷たい反応しか出来ない、厄介な呪いを持つ男の手を自ら握って離さなかった。この世界へ導かれ、海へ落ちた時も、彼女は迷わずに恭一を助けた。恭一に記憶はなかったが、目覚めるまで暖かく大きなものに護られていたことは覚えていた。



それはずっと、彼女アイテルだったのだと。


「すぐに…戻っ……」


 すぐに戻ると不安げな彼女に告げた。少なからずも、彼女を安心させるために言った。

その場を取り繕う為の嘘ではなく本当だったが、この怪我では叶えそうにもない。自分はもう殺されようとしている。


そして、アイテルにはまだ、救って貰った借りも礼の1つも返せていない、と。母と呼べた人を亡くした時に、最初で最後だと思っていた"後悔"をした。


 あの時よりも、強くなったはずなのに。何処から貰ったのかも分からない人にはない力も手にしているというのに。どうしてまたこんな惨めな思いをすることになってしまったのか。こんな呪いに、一瞬でも流されて、無様に支配されてしまったのかと。



「アイ…テル」



 ここで無様に死ぬことが、俺の運命さだめだったのかと憤りを感じたながらアイテルの名を呼んだ時、自らの血が流れる口元から頬を辿るように温もりが這った。




__「はい、ここにいますよ」




するりと入ってきたアイテルの声に、理性が完全に恭一の体へ戻った。目の前には、いるはずのない赤い瞳を持つ彼女の顔が、霞んだ視界の先にあった。



「っ……なに…してんの……。ここには…」



 アイテルが慈愛に満ちた微笑みで恭一の顔を手で包み込んだ。周囲に集まっていたグェイが潮が引くように離れていく。

まるで、アイテルの存在に恐怖を感じているように。



「そろそろ、ご勘弁頂けませんか?女王ニュイワン。恭一さんを返してください」


「…フォア。凛華リンファを借りて入り込んで来るとは。やはりエバだねぇ」


 恭一の前にいたのは正確に言えばアイテルでなく、リンファである。

リンファは祈り柱としてアイテルと繋がっていた為、その体をアイテルの意識が主導権を握り、ここに現れたのだ。



「返して頂かなければ、私は、貴方のお願いを無視して、それなりの対応をさせていただく必要があります」


「おや、言うようになったじゃないか。真王ともなると、我が城を潰すのは容易だと言うわけだね?」


「どうか…私の気の和らいでいるうちに、ご決断くださいな」


恭一を貫いていた触手が、リンファの手が触れた瞬間に弾け飛び、消える。落ちた恭一の体を、華奢で小柄な体が受け止めて、女王ニュイワンへ穏やかにそう告げた。


女王ニュイワンはムッとした表情をその小さな顔の上に浮かべて沈黙した後、静かに、この領域から恭一を解放した。


__恭一の意識は、元のテントの中で目覚めた。床の上に頭にはクッションを敷いて寝ていた状態で、いつ自分が床の上で寝ていたのかも覚えていない。


「ゲホッ…ゲホッゲホッ!!」


意識が戻って数秒遅れて激痛が走り、口から血を吐いた。右手の呪いが皮膚を抉り、浸食が見られたが、目の前の部屋から駆けつけてきたアイテルに覆い被さられ、右手をぐっと握られる。


「恭一さん、恭一さん…!良かった……」


「っ…重い…アイテル…」


「深呼吸してください。少しずつ、少しずつです…」


 体につけられたはずの傷はなかった。ただ、食らったという証の痛みだけはある。どうなっているのか、さっきまでの出来事は、現実だったのか分からない。


 恭一はまだ頭の整理がつかないままゆっくりアイテルの呼吸に合わせ、彼女の体温と香水の匂いに包まれながら落ち着きを取り戻す。


 そして、アイテルが飛び込んできた部屋からゆっくりと、今度は男の姿の女王ニュイワンが、でかい図体を動かすようにゆっくりと入ってきた。


 着ていたチャイナドレスにつけたはずの破れも皮膚の傷もない、その上女の姿でもないが、何食わぬ顔のその姿に腹が立ち、アイテルを上から払い除けて、痛みを糧に立ち上がり、女王ニュイワンに掴みかかって押し倒した。


 ドンッ!!と強く床に打ち付けられた衝撃と共に、恭一さん!!と後ろからアイテルの声が飛び、静止していたもう一つの気配が、強い殺意を放ちながら恭一に襲いかかろうとしていた。


 押し倒されても涼しい顔をしている女王ニュイワンは、腕を上げて静かにこう告げる。


「下がっていろ、ウズメ」


後少し声が遅ければ、女王ニュイワンから恭一を引き剥がし、恭一は眼帯の少年に殴り殺されて居ただろう。

少年は赤い目を血張らせながらピタッと止まる。


女王ニュイワンは恭一の顔をただ見ていた。誰が見てもキレていると一発で分かるほどの表情で、手には懐に忍ばせていた銃を、自分の額のど真ん中に突きつけられても、動揺すらしないほど涼しい顔だった。



「あの男の居場所を教えろ。でないと殺す」


「教えて、その後どうするの?あいつもこの銃で殺す?」


「俺にこんなもの擦り付けておいて、生かしておけると思う?奴が持ってる遺物ごと、闇に葬ってあげるさ」


 女王ニュイワンはその言葉を恭一から聞くと、なんだかうんざりしたような息を吐き、指で向けられた銃を額からずらした。



「わかった。あんたら二人、似た者同士ね。親切にしてやってるのに、受け取らない頑固者」



 何処が親切というのだと言い返したくなる台詞だが、女王ニュイワンは、恭一を殺すことを諦めたらしい。

 重いからどけと恭一に退くように指示し、恭一は渋々立ち上がると、後ろから安堵したようにアイテルが恭一の顔を覗いた。


 それに恭一も銃をしまいながら目線を合わせて応えると、アイテルは黙って恭一の胸に身体を寄せた。


「心配しました。こんなことになるなんて…」


「どうやって来たの?」


「…私も、よく分かっていないのですけど、貴方に呼ばれた気がしたので、あのまま身体を貸してもらいました」


「望んだ覚えなんかない」


恭一は明らかな嘘をついたが、アイテルにはお見通しだった。


「もう少しで本当に殺されていたんですよ?呼んでくださってよかったです」


「だから呼んでない。いつになったら‘待て‘が覚えられるの?君は」


「だって呼びましたもの!」


「はいはい、煩いな。のろけるのは帰ってからにしてよ」



 なんだお前らと言いたげな不満顔で、近くにいたウズメの手を借りながら再び元のイスまで戻るように女王ニュイワンは言った。


貫かれた腹や肩がまだ疼いている恭一とアイテルが再び同じ席につき、女王ニュイワンはテーブルにおいたキセルを一度吸い、一息ついた後で口を開いた。


「あいつなら、ソドムへ行くって言ってたよ。国民全員が犯罪に手を染めてる無法者ばかり、国家反逆以外はほぼすべての犯罪が合法の背教の国だ」


「…それ、"国"?」


 ラウの居場所は、聞けばとても国という成り立ちがなっているのかどうかも分からないような場所だと聞いて恭一は耳を疑う。だがアイテルは恭一の疑問に平然と答えた。



「国ですわ。犯罪を生業とした産業で成り立っておりますの。私を狙う方々も、だいたいソドムの者が依頼を受けて暗殺に来られますのよ」


「君、そう平然と言うけど、そういうのは一番君が潰しておかないといけない場所なんじゃないの??」

 

真王が黙認していてもいい場所なのかと言うと、困った顔をしたアイテルの代わりに女王ニュイワンが答えた。


「うちにもよく来るけどさ、あいつらってよくも悪くも中立なの。たまに取引すると、私情挟まず色々上手くやってくれるから使い勝手がいいわけ。他のところだってそうでしょ、それが奴らの金儲け」


女王ニュイワンのように、昔から取引されていらっしゃるお国や権力者が多いものでして…私の一言でジュドーが上手くやってくれる事ではありますが、お先に色々と…ねっ?」



 察して欲しいと言わんばかりに笑顔で明確な答えを避けたアイテルに、この世界も向こうとあまり変わらないのかもしれないと恭一は思い始めた。


「あそこに何しに行ったのか知らないけど、何か企んでるんだろうね。あいつの事だから。今から行って追いつくとは思えないけど、知ってるのはそこまでだ」


女王ニュイワン…教えていただいてとても助かりましたが、その方は、お友達なのでしょう?」


「教えて欲しいんじゃなかったの?」


「先ほど、お友達は売らないとおっしゃってましたもの」


短い眉をひそめて、アイテルの言葉に答えた。


「基本的にはね。ただあいつの場合、銃で撃とうが八つ裂きにしようが、別に構わないよ。そんぐらいでへこたれるような奴じゃあないからさ」


ラウは手強い相手だって言いたいの?」


ラウ?あいつは今そんな名前なのか」


「…偽名?」


 ポロッと女王ニュイワンが言った事を聞き逃さず、恭一は追求するとこれに関して、女王ニュイワンはすんなりと情報を明かした。


習晃累シーコウルイ。子供の頃から使ってた名前。クーロンが向こうの世界との繋がりが弱くなった時、あいつは向こうの世界に出て、色々名前を変えている」


「ということは、九龍城出身者?」


「まあ、そうだね。一周回ってろくでなしになるほど頭が良い奴で、夢中になると他の事が見えなくなる。良くも悪くもね。あんたの強さはよくわかったけど、あいつはあんたより10歩先は読んで動いてるよ。探しに行くなら、必ず道の何処かに地雷が埋まってると考えていた方がいい。あぁ、通ると矢とか槍が飛んでくるようなやつもあるかも」


「人を憎悪に貶める呪いをかけることもね」


「上手いこと返すねぇ。とにかくそういう奴だから気を付けな。…だけどさ」



女王ニュイワンは恭一の返しに面白がって笑った後、イスの背もたれに寄りかかり、逆に質問をした。



「あいつを殺しても、呪いは解けない。遺物を破壊しないといけないのは分かってる?」


「知ってる。だから、奴が持ってるんじゃないの?入ってたケースのロックを外せるとしたら、奴だけだ」


「私が会った時は、何も持ってなかったよ。何処かに置いてきたんじゃないの。持ち込んだらさすがの私も怒るって分かってる。…わざと怒らせてくる時もあるんだけどね」


「あの、どのような見た目の遺物なのか知っていますか?私もジュドーも、分からないのです」


「…君らでも分からないって事は、その遺物も、見つけて欲しくないんだろう。非礼を詫びるかわりに、教えてあげるよ」


意味深な事を呟きながら、少し頭痛を感じているように顔を伏せた女王ニュイワンの目が恭一の方へ向いた。



「"マザーブレイン"、聞いたことある?」


「…あぁ。それがどうしたの。何年も前の、今関係ない話だけど」


「関係はあるよ」


"マザーブレイン"

女王ニュイワンの告げたその名は、恭一が子供の頃に開発されていたとされるオールドAIの通称だ。

オールドAIは、世界のあらゆる情報監視システム、個人のデータベースの集結地点にアクセス権限を有する集合知AI。つまりはこの地球上にある情報をすべて所有する人工知能。ある各国のその開発は秘密裏に行われ、北極圏の施設に隠されていたと言う。


 最終的な調節段階で、内部回路の故障による不慮の事故により計画は破綻したと言う。それは諜報捜査による破壊だと言われていたが、実際は違うものだ。


「マザーブレインは、今の世の中じゃ神になれるほどの高度な脳ミソを持っていた。まあ、しばらくは、お偉い人間様の傀儡くぐつの神だろうがね。各国の諜報機関も所在を掴むのに苦労してたものだ。どうやって、破壊されたと思う?」


「職場のデータベースの深淵を覗いてみた事はあったけど、事故当時の詳しい記録はなかった。痕跡はあったから、多分消去されている。事故じゃなかったことは明らかだね」


原初エバが破壊したんだよ」


真王アイテルではない、原初エバがね。彼はまたキセルを吸って煙を吐いた。


原初エバは機械の神を許さない。失われた歴史の中で、必ずそういうものを破壊してきた。人間が神に近づこうとした叡知の結晶、バベルのように」


「人が高度な文明を築き上げているのを嫌って破壊したと?…傲慢な神々らしいね」


「人間への善意でも牽制からでもない。AIに集結した現代世界の情報の海、あんたの出生から人生、健康診断の結果から口座情報なんて砂つぶ。そしてマザーブレインの知能を奪うために施設を襲った」


 施設を掌握する事はエバの器となった者にとっては簡単なことだ。でもAIはそれなりに抵抗した。知能と判断能力に関して、エバに近いものがあるからこそだ。


 そしてその時、その遺物は形となって生まれたのだと。何処か冷めた視線で恭一とアイテルにそれを語った。



「片腕だよ。肘から下にかけての。叡智のAIが、決死の抵抗で片方だけ切り落とした腕だ」



 その発言に恭一も、隣のアイテルも息を飲んだように驚いた。恭一は自分が手に持っていた時の重さを覚えている。片腕の重さは体重の約6パーセント。それなりの重みがあった。あの中にまさか、人間の人体が入っていたとは思っていなかった。ケースの中に血痕があったのは、恭一の血が中に入り込んだものではなく、今も腕のもの。それを自然に確信させられる。



「腕が切り落とされた時、かつての原初エバは、あえてそれを手放した。自らを動かす憎悪と憎しみの念を込めてね。機械の産物を利用して、自分達が世界を牛耳ろうなんていう欲望の浅ましく、身の程を知らない人間への罰…なのかもね」



 そう静かに締めくくった彼に、アイテルは気分のすぐれない顔色で、恭一も思っていた疑問を聞き返す。



「どうして、貴方がそこまで知っているのですか?ジュドーも掴めずにいた情報なのに…」


その質問に数秒ほど間があき、暗い底の炎を見つめているような瞳が、アイテルを見つめた後、質問の答えは言わずにこう答えた。


「この呪いを消し去るのに命かけられる?この呪いには、今始末しておけばよかったと後悔する時が来ると断言できるほど、どうにもならない時が来るだろう。この男の命の代わりに、死ぬことになるかもしれないよ」


 憎悪の塊。人間の醜い欲を晒し、無惨な死を遂げさせる呪い。エバの強い念がこもったものを、アイテルはたとえ命に変えてでも、破壊できるのかと。恭一が思わずアイテルの方に視線を向けたことに気づいた女王ニュイワンは、さらにアイテルに追求した。


「この話に関して嘘は何もない。呪いはあんたでも容赦なく殺すよ。それでもいいの?」


「…私、一度決めた事は最後まで変えないと決めています。今のお話が本当であれば、私のような者こそが、なんとかしなければいけません。そうでしょう?」


「…だって。良かったね、恭一くん?」



私なら迷いなく殺してるのに。そう言って恭一に話を振った女王ニュイワンだったが、恭一は黙ってそっぽを向いた。ここまで、とんでもないものだと知っても、アイテルが揺らぐ姿勢を見せなかったことに、困惑して言葉も出なかったからだ。


「さて、教えられる事は教えた。後は自分達で頑張ってくれ」


「ありがとうございます、女王ニュイワン


「外で静麗ジンリーが待ってる。境まで案内させる」


話は終わりだと告げた女王ニュイワンの言葉に立ち上がったアイテルだったが、椅子に座ったまま立ち上がらない恭一の様子に気がつく。



「何?まだ何か聞きたいの?聞くなら、さっさと聞いて」


ぐずぐずされるのは嫌いだという女王ニュイワンに、恭一は口を開いた。


「その原初エバは、まだ生きてるの?」


「…フォア。また突っ込んだ事聞くね」


「君はまるで、マザーブレインが破壊された時の状況をその場で見てたように語ったからね」


「そう聞こえた?紹介しろって言われても無理だよ。友達じゃないからね」


ヘラヘラ笑いながら手元のキセルをいじり、女王ニュイワンはこれだけを告げた。



「天使にでも聞いてみるといい」



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