♥17まぶしい水着



「お、おい!あれ…」


「うぉっ…すっげぇいい女……」


「っち、彼氏付きか」


 エピナスホテルの屋外プールのプールサイドを、莉香と並んで歩く僕の耳に、周囲の男たちの恨みがましい声が入ってくる。夏真っ盛りの8月の空は、これでもかと言わんばかりに太陽が輝いている。他の男の視線が腹立たしいと感じつつも、そんなすごくいい女である莉香を独り占めできている嬉しさと喜びを感じてしまって、隣を歩く莉香を見る。


「どうしたの?敬真」


 灰色がかった瞳をキラキラと輝かせる莉香は本当にかわいい。かわいい上に、大きな胸(Eカップって教えてもらった!)とくびれたお腹、形の良いお尻にすらりとのびた足が、なんというかものすごい色気を放っている。ちなみに胸は柔らかくて、僕の腕にあたってふにゅうと形を変えている。


 莉香の着ている水着は、胸と肩紐にフリルがあしらわれたビキニタイプのもので、濃い目のピンクに黒のラインが入っている。はっきりとした色合いが莉香の白い肌ときれいにコントラストを作っている。お腹に金色の鎖のアクセサリー(ボディチェーンっていうそうだ)が揺れている。なんというか、裸まで何度も見ているはずなのに、太陽の明かりの下で見る水着のセクシーさは、いつもとはまた違って素敵すぎた。


「莉香が…かわいくて、セクシーだなって……」


「!…でしよ!えへへ」


 腕につけた管理タグの番号と同じ場所のプールサイドのロングチェアーに僕達はそれぞれ腰をかける。エピナスホテルのプールは利用料が高額なだけあって、人も少な目で、客層も落ち着いた大人が多いみたいだった。


「敬真には、今からあたしに日焼け止めオイルと塗ってもらうという仕事があります♪」


「え…えぇ?」


「む?いやなの?」


「いや、嬉しいんだけど…なんていうか、その…うんありがとう」


「やめて、照れるのは止めて、あたしまで恥ずかしくなるから」


「ごめん、ごめん。でも日焼け止めってもう塗ってきたんじゃないの?」


「2~3時間ごとに塗りなおしたほうが、ちゃんと効果が高いの。はい、じゃあお願いします。薄く塗ると効果が弱まるから、たっぷりつけてお願い♡」


 そう言ってバスタオルを敷いたロングチェアーに、莉香がうつ伏せで寝っころがる。僕は瞑想している心持ちで、日焼け止めオイルを手にたくさん付けて、莉香の体に塗りこんでいった。


「敬真、水着の際もお願い。そこだけ変に焼けちゃったらやだから。くいってやっていいからね♪」


「う、うん…」


 ここが屋外で、夏の日差しがバシバシと痛いくらいに差していて、プールサイドなので、僕はかろうじて自分を押しとどめられている。それでも、内ももとか、お尻とか、仰向けになった胸まわりとかに塗るときは、心臓が張り裂けんばかりだった。瞑想の心持ちが効かなくなってきたので、僕は師匠の顔を思い浮かべながら続けていった。





 その後、トロピカルフルーツのドリンクを飲みながらいろいろな話をしたり、プールに入って遊んだりして楽しんだ。お腹がすいてきたので、プールサイドから水着で入れる専用のレストランに移動する。


 ランチはハンバーガーやロコモコ、ステーキやチキンなんかの各種ランチプレートになっていて、莉香はロコモコ、僕はサーモンフライプレートを頼んで、お互いにシェアしながら美味しく食べた。美味しかったけど微妙に量が足りなくて、さらに3種類のデザートを頼んでシェアして楽しんだ。


 僕達は、もう少しだけいようか、それとも帰ろうか等と話をしながら、プールサイドを歩いていたら、莉香に声を掛けてくる男がいた。


「あれー?姫宮じゃん?」


「佐々木君」


「なんだよ、姫宮もここにきてたんかー。お、しかもその水着めちゃめちゃ似合ってて、可愛いじゃん。マジセクシー」


 顔に出さないようにしているけど、莉香の機嫌が悪くなったのが僕にも伝わってくる。


「今さ、クラスの連中と俺らも来たとこなんだけど合流しようぜー?」


「彼氏と来てるから合流しないよ」


「お、こちらが噂の彼氏?姫宮と同クラの佐々木。よろしくー」


 最初から僕のことを無視していて、莉香になれなれしいこの男に、僕は不愉快さしか感じなかった。友好的な態度をとっている様に見えるけど、なんか根本から人のことを舐めてるような、そんな感じだった。


「花村です」


「花村も一緒に俺達と遊ばない?しかも花村ってなんかすごい強いんだって?俺らにもケンポー教えてよ、ほあちゃー」


 変な振りで突きを披露する佐々木の腕に『落絡』を仕掛けて肘を壊してやりたい…という思いを抑えながら冷静に対処しようと思っていた。


「まぁ機会があれば…」


「花村、固いなー、そうだちょっとこっち来て?」


 佐々木は、腕で僕と肩を組むようにして莉香から少し距離をとると、耳元で周囲に聞こえないように俺に囁いた。


「お前さー、姫宮と別れねえ?別れたら、あぁお前から振るのな、そしたら200万、ガチでやるよ」


「え?」


「いや、マジで200万やる。普通はそこまで出さねえんだけど、姫宮だろ?だったら200くらい出していいかなって。で振ったら俺に連絡な。慰めてやらねえとな。確実に俺のもんになるかもわかんねえけど、攻略要素は残ってたほうがいいしな」


 僕は、佐々木が何を言っているのか分からなかった。いや、喋っている内容は頭では理解できるのだけど、佐々木の存在が、そういう人間がいるということが理解できなかった。


「何を言って…」


「もしさー、姫宮のエロい写真とか撮ってるんだったら、それも追加で50万くらいなら買い取ってやるから。それを交渉材料にできるかもだし。あ、でもデータは消せよ、俺だけのもんにするんだから」


 肩に巻かれた佐々木の腕がおぞましい何かの触手のように感じる。背中を走る気持ち悪い感覚を、心の奥から噴き上がってくる怒りで押し出して、僕は佐々木を見る。こういう時こそ、冷静に…師匠の言葉が頭をよぎる。わかっているけど、それでも腹が立ってしょうがない。


「佐々木君はさ」


「おう?」


「…気持ち悪いね」


 僕は体をふっと緩めて、佐々木の腕からするりと下に抜ける。体勢を崩して少し前のめりになったところを狙って再び立ち上がると同時に、肩を使って佐々木の重心をさらに崩して、浮いた足裏をつま先で押し上げる。


「おわぁあーーっ!」


 派手な水しぶきと共に、半回転した佐々木がプールに落ちる。ここがプールサイドで良かったねと思いながら、顔を上げて水を払う佐々木を見下ろす。


「佐々木君、さっそく機会があったね。莉香、僕らはもう帰ろう」


「うん」


 背中に佐々木のねちっこい視線を感じながら、僕たちはプールを後にした。


「敬真、佐々木君に何を言われたの?」


「あー…不愉快になるから莉香は知らなくていいかなって思う」


「そっか…でも敬真あたしのために怒ってくれたんでしょ。ありがと♡」


「いや、まぁ…僕もプールに落としてスッキリしたし」


「あたしも♪……じゃあ、お部屋に行く?」


「うん、涼しい部屋で、その……」


「えへへ♡えっち♡」


 その後、利用時間ギリギリまで、僕達は高級ホテルの部屋で楽しんだ。




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