♥24後始末



 その後、僕と莉香はレッドヴァースの連中、K-BOSSとチーム員達がヤクザ屋さん達に連れていかれるのをソファに座ってみていた。そしてその途中くらいから僕は気を失っていた。


 翌朝、目が覚めたのは病院だった。いろいろと聞かれたりしつつ、僕は疲れすぎていて、いまいち意識がはっきりしなかった。莉香とも軽くメッセージアプリでやりとりをしつつ病院内をあっちこっち連れまわされて検査をされて、念のため一晩病室で休んでから帰ることになった。





 窓から陽気さの残った陽光と暖かい風が入ってきている。でも僕の右腕にはギプスが巻かれていた。胸にはシップも貼られていて、独特の匂いが僕の鼻をつく。そんな僕を痛々し気に見ている母さんに、改めて謝った。


「母さん、本当にごめん…」


「佐久川さんから連絡もらった時は血の気が引いたけどね。まぁ事情は聞いているよ。骨折で済んでよかったし、精密検査でも異常なかったから、正直ホッとしたよ。あまり心配させないで」


「うん…ごめん」


「敬真。あんたは…がんばったんだろう?」


「うん、いろいろ足りなかったけど」


「それがわかってるならいいよ。夕方には莉香ちゃんの家だろ。帰ってお風呂に入って少しゆっくりしな」


「母さん、ありがとう」





「はいはーい、今開けるね」


 呼び鈴を鳴らすと、元気な莉香の声が響いて目の前の扉が開いた。出迎えた莉香の顔は、まだ少し腫れていて、僕の心がキュッと痛む。それを察した莉香が微笑んでくれる。


「…大丈夫だから。さ、入って♪」


 莉香の家におじゃまして、母親を紹介する。親同士の挨拶がされてすぐに、母さんは莉香と莉香の家族に向かって頭を下げた。


「この度は、ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした…特に莉香ちゃんには本当に痛い思いをさせて…」


「花村さん、どうか頭を上げてください。うちの莉香は、敬真君に助けてもらったんです。感謝こそすれ、花村さんが頭を下げることなんてありません」


 莉香のお母さんが、頭を下げる僕の母さんの腕に手を回す。


「そうですね。敬真君の先生の佐久川さんから話を話を聞いていますし、先ほど佐々木君のお父さんもお詫びに来られたが…。できれば敬真君からも改めて話を聞かせてもらいのだけど」


「はい、恥ずかしい話ですが…」


 少し渋い顔をした莉香のお父さんに話を向けられる。なので、僕は僕の視点から今回起きたことや、自分が思い上がっていたことを説明していった。隣には母さんがいて、リビングのテーブルには莉香の家族が全員揃っている。そんな中で

自分の恥について話すのはつらかったけど、最後まで話し終えた。冷めたお茶をごくりと飲んで、ふぅと息を吐き出して莉香のお父さんが口を開いた。


「敬真君、まず改めて君にお礼を言いたい。娘を、莉香を助けてくれてありがとう」


「師匠が来てくれたからです…。僕は助けられていないんです。そもそも、もっと最初に上手く動けていたら…、僕が莉香さんとお付き合いをしていなければ…」


「敬真君、それこそ思い上がりだよ。何もかもを全て最初からできる人間はいない。ましてや全ての原因を自分にあるように思うなどもってのほかだ。今回、うちの莉香の行動も軽率だった。君達は高校生だ。子どもであり、日々いろいろなものを得て、大人へとなりかけている」


「でも…」


「聞きなさい。そんな高校生なのに、君は闘うことにおいて大人である僕には想像もできないほどの覚悟を持っている。その覚悟があったからこそ、ギリギリだったかもしれないが莉香も…そして君自身も無事でいられた。だから、やっぱり感謝をしているんだ。ありがとう敬真君」


「そうだよなー、そんだけの中で闘うのは相当な覚悟が必要だよな。実際。敬真君、君はすごい男だよ」


 莉香さんのお兄さんの信也さんが腕組みをしながら、しきりに頷いてくれる。


「敬真君、次は頼りなさい。君の師匠やお母さん、私達でもいい。大人を頼りなさい。人を頼って、そして頼りにされなさい」


「はい…ありがとうございます……」


「さぁ、湿っぽい話はここまでよ。今日、花村さんに夕方来てもらうことにしたのは、美味しいご飯を食べるためでもあるんですから。莉香も頑張って作ったのよ、もちろん食べていくでしょ?」


 こうして、僕は莉香さんの家族にも改めて許してもらえた。最悪は「君とつきあっているからトラブルが起きる。もう娘には会わせない!」と怒鳴られることも覚悟していたから、少し涙がこぼれるほど、嬉しかった。





 結局、今回の事件は、師匠と高岡さんの動きによって解決することになった。


 まず、元凶だった佐々木。高岡さんが、佐々木のスマホを使って父親に電話をして事情を説明した。K-BOSSのスマホなども没収していて、証拠も上がっているから言い逃れのしようもなく、本人も認めている。(最初は喚いていたらしいけど、高岡さんが凄んだら全てを認めたらしいのと、その後の自分で経緯を説明させて、その発言も録音したそうだ。)


 高岡さんは、佐々木の父親に刑事事件にするかどうかを確認した。話が警察にいくと全てが明るみに出る。佐々木の父親は、大きな会社をやっていて、息子が半グレチームに資金提供をしていたなんてなったら、会社がつぶれかねない。

そのため、事件を表沙汰にしないでほしいと高岡さんに泣きついた。実際、表沙汰になると何事もなかったとはいえ、莉香も好奇の目にさらされる可能性もあるし、学校にもばれるから、その方が僕らにとってもよかった。


 高岡さんと佐々木の父親の話し合いの結果を受けて、次に師匠が動いた。師匠は僕の母さんと莉香の家族に、事のあらましを説明した。佐々木が僕への嫉妬と莉香さんを欲っするがあまり、半グレに資金を提供して襲わせたという内容だ。細かい流れはともかく事実だ。


 そして、頭を丸めた佐々木の父親が、両家族に謝罪にきた。佐々木の父親は、刑事事件にしなかったことを感謝していること、佐々木本人は地方に転校させ高校卒業と同時に仏門にいれ縁を切ること、を述べて深く頭を下げたそうだ。また併せて相当額の慰謝料を置いていこうとしたらしい。慰謝料に関しては、受け取るかどうかも含めて両家族それぞれで対応することになった。


 半グレチームのレッドヴァースは、全員高岡さんの関係のあるタコ部屋、要は逃げられない山奥の工事現場とかでこの先ずっと働くことになったそうだ。K-BOSSを始め、その中でも特に非道なことをしていた連中は、タコ部屋の中でもより危険度の高いところに送られたそうだ。


 ちなみに高岡さんは3代目龍泉会というヤクザの若頭だ。佐々木の父親が刑事事件にしないという選択肢をとったことで、高岡さん達は甘い汁を吸い続けられる仕組みを作れたらしい。怖いから内容に関しては聞いていないし、息子に何百万もの小遣いを与えている時点で、父親だってまっとうな人間でない。佐々木の父親の会社も叩けば埃が幾らでもでてくるところだから、結果オーライだって師匠は笑ってた。


 こうして一連の事件は終わりを迎えた。僕は自分の未熟さを思い知らされて凹まされたけど、莉香の笑顔がそれを救ってくれている。

 




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