♥33闘い終えて



「ーーー♡♡♡」


「莉香!!」


 莉香が達するのと同時に、僕の背中を強烈な快感が走り抜け、出ていく。全身でしがみついてくる莉香に返すように、僕も強く、でも莉香が苦しくないよう抱き返す。莉香も僕の体も熱くなっていて汗をかいているが、そのまま動くことなく痺れるような余韻に浸る。


 ベッドのそばには、真っ赤なチャイナドレスがしわくちゃになって脱ぎ捨てられていて、その周りには下着も放られている。熱いキスを交わした後、僕達は仰向けになって体の火照りを鎮め、天井を見ながらポツポツと話す。


「……敬真、すごかった♡♡♡」


「莉香、すごく気持ちよかったよ」


「んふふ…♡チャイナドレス効果かな♡」


「うん、すごく興奮した」


 と言いつつ、チャイナドレスは最初の1回しか来ていない。ナースとかもだけど、衣装って興奮するけど、2回目以降は結局なんだかんだ言って、わずらわしくなって脱いでしまう。ちなみに今は3回目だった。


「敬真すごいね、免許皆伝なんでしょ?」


「実感は湧かないけどね」


 実感はわかないのだけど、『呑転』を会得したことで自分の感覚の一部が変わったようで、相手の体の奥から発する気配みたいのも少し感じれるようになっていた。今までが表から察知をしていたとすると、それと同時に奥の部分も感じ取れるような感覚と言えばいいのだろうか。


 そしてそれは莉香と肌を重ねるときにも発揮される。今まで以上に深く理解し、そして自分を呼応というか共振できるようになったのだ。だから僕も莉香も快感が深くなっている。


「そうだ、莉香、明日久しぶりに大吉にあってくるよ。もうだいぶ良くなったみたいなんだ」


「そうなんだ。ね、あたしも一緒に行っていい?敬真が怪我して帰ってきたときは、正直すごくむかついたけど…あたしは、もう気にしてないし……、敬真が仲良くしたい人だったら、あたしも友達になっていいなって思えたの」


「莉香がいいんだったらいいよ。それも伝えておくね」


「うん♪」





「久しぶりやな、あれから10日くらいか」


「伊勢さんおひさしぶりです」


「莉香ちゃん、ひさしぶりやな。なんや、もう会わせられん言うてたけど、ええんか?」


「大吉言ったでしょ?闘い終わったらダチになろうって。で、莉香も僕の友達なら、仲良くしたいって」


「そらどうも。莉香ちゃん、敬真を傷つけて悪かったな。彼女からしたら正直むかついたやろ?」


「たしかにむかついたけど…でも敬真を信じていたし、敬真のやることを…できる限りで応援しようと思ってるから…」


「あーほんまに、びっくりするくらいええ女やな。まぁ…そんだけ男に惚れよる女を、今さら口説こうとも思わんけどな。…まぁ改めてよろしゅうな」


 頭を搔きながら大吉は苦笑いする。


「大吉、体のほうは大丈夫?」


「あぁ、もうピンピンやで。あれや、おまえの師匠さんにも、よろしゅう伝えといてくれ。ほんまにお世話になった。おおきにってな」


 今、僕達3人はマスバーガーで、バーガーセットを食べながら話をしていた。


「敬真、お前に撃たれた『勁』なんやけどな…あれって」


「うん、大吉が僕に撃ったのをそのまま返した」


「かなわんなー、そんなことができるんやなー」


「僕からすれば、大吉の闘い方もすごいと思ったけど。人間ってそんなめちゃくちゃな動きができるんだって。たぶん聞いてもわからないと思うんだけど、あれってどうなってるの?」


「いや説明できひん。わしも、ほんまにわからんわ。まぁでも…」


「うん…」


「「いい闘いだった」」


 僕と大吉は拳をぶつけあって。莉香はそれをまぶしそうに見ていた。





 そこからは雑談になった。


「莉香ちゃん、わしんとこな男子しかおらんねん。しかも大体不良や」


「そうだね。男子校だしね」


「頼む!後生やから、友達…できれば可愛いこ紹介してくれんか?」


「えーでも男子校でも彼女持ちとか普通にいるでしょ?」


「いやな、なんかその…不良言うても粗ヶ崎におるんは、ちょっと時代遅れかってくらい古いタイプの不良でな。そういうやつらがつきあう女も、だいたい同じ感じなんや。わしは!もっとナチュラルメイクの!パーマとか変にくるくるしてない!もっとかわいい子がええんや!…でもそんなんおらんのや」


「まー伊勢君もそっちよりなファッションだとは思うけどね」


 大吉のファッションは、極双学院の灰色の学ランなのだけど、丈は短く詰まっており、ズボンは腿のところで太めになっているタイプのものだ。師匠は、短ランボンタンって言ってたけど、それが何を差すのかは僕にはわからない。


「ま、そういうのが好きなこいるか、聞いてみるよ」


「おおきに!莉香ちゃん、ほんま女神や!頼む!」


「期待しないでおいてね」


 そんな会話をひとしきり楽しんだ後、僕達は別れた。今までは、闘いを経て自分の内側の気づきなどはあったけど、今回は友達を得ることができた。それが、僕はすごく嬉しかった。






「~~~という風に考えているんだけど、どうかな?」


 ある日の晩、僕は母さんに将来のことに関して相談をしていた。


「そうだね、今はそのくらいで具体的にせずに、探しながら進んでいくのもいいのかもしれないね。方向性は敬真の望むものなのだから」


「ありがとう、それで…」


「うん、進学の費用に関しては心配しなくていいよ。医大とか美大って言われたら、ちょっとしんどいとこだったけど。もともと敬真が大学に行くことを考えていたから、ちゃんとそのために積み立ててきてるし」


「……ありがとう、母さん」


「それに臨時で入ってきたのもあるしね」


「臨時?」


「佐々木君のお父さんからの慰謝料よ。結局うちはもらったわよ。敬真が怪我させられたんだし、お金に罪はないから。治療費とか差し引いた分は、進学とか将来のあんたのために残しておくわ」


「ありがとう…‥」


「あーそれで。はい、これ」


「これは?」


 封筒を開けると、そこには新しいお札で1万円が10枚入っていた。


「お小遣い。敬真は拳法ばかりで何かねだるってこともないし、どーんと上げるから自分の好きなことに使いな。もうすぐクリスマスだしね。無駄使いしてもいいわ。敬真が体を張ったお金なんだから」


「急にそんなこと言われても困るけど…莉香とも話してみるよ」


「そこで真っ先に莉香ちゃんとってあたりで、母さんも安心するわ。何か必要なことがあったら言いなさい」


「ありがとう」


 僕は高校生にしては大きな金額のお小遣いをもらってしまった。





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