♥30意外に気持ちのいい男
「あたしをバカにすんなっ!敬真をバカにすんな!強いから敬真を好きなんじゃない、敬真だから好きなの!」
「莉香!」
莉香が怒鳴っている。莉香の前には灰色の学生服を着崩した、ちょっと前の不良みたいな恰好の男がいる。僕は走りこんだ勢いのまま、警戒度を上げて莉香の前に立ち、男と対峙する。
「莉香…大丈夫?この人は?」
「敬真…。お昼に話した、一昨日ナンパしてきた人…」
「ストーカーされてるってこと?」
「ううん、敬真に会いにきたって」
「僕?」
そこで男が口を開いた。
「あー…ねえちゃん、すまんかった、あんたも彼氏も別にバカにするつもりはなかったんや。口が滑った。許してくれ。ほんまに悪かったわ……」
思いがけない謝罪の言葉に、莉香も僕も少し驚く。そして言い方はともかく、悪い人間ではないんだろうなというのが、なんとなく察せられた。
「おまえが花村敬真やな。あーここで仕切り直してもええんやけど、もしよければ場所移して話だけでも1回させてんか?ちょっと注目を浴びてるのはどうかと思うんや」
他校の生徒が、校門の前にいるってだけでも目立つのに、そこに莉香がいて僕もいる。少しすれば先生もきてしまうだろう。
「うん、わかった。莉香は、」
「あたしも行くから」
「わかった」
「場所は僕が案内するよ。少し行ったところに公園があるからそこで」
「あぁ頼むわ。ついていくわ」
◇
「改めて自己紹介や。わしは、伊勢大吉や。伊勢でも大吉でも好きに読んだらええ。」
「僕は花村敬真。彼女の莉香」
「莉香ちゃん言うとったな。よろしく、とはもう言えん感じかもしれんけど、よろしゅうな」
「それで?」
「あーどこから話そか……。わしはな、ちょっと前に関西から越してきたんやけど、転校先は極双学院やったんや。まぁ、向こうでもそれなり悪さしてきよったから、転校先があんなんはしゃーないと思てるんやけどな」
伊勢大吉は、「おまけにワルしかおらん男子校やで、わしの青春はどこいったんや」とため息をつく。
「それでな、まぁ学校の中の目立つやつをどんどん締めてったら、まぁ当然のごとく、学校で1番なったんや。そしたら次は、余所の学校なるやろ?」
「なるやろって言われても」
「なるんや。で、粗ヶ崎に鳳生学園と賽原高校があるやんか。それも締めに行くでってなってな。いくらワルとはいえ、今どき全面戦争みたいにはならへん。そんなあったら、警察もきて学校つぶれるしな。そもそもわしはチーム組みたいわけやないねん」
そんな不良達の事情など全然知らなかったが、目の前の男がチームを組んで悪いことをしている様子は確かに想像できなかった。
「そんでな、わしが1番強いやつとして、その2つの学校に行って、どっちも絞めたんや。せやから粗ヶ崎でいっちゃん強いのはわしってことになったんや」
「おめでとうございます?」
「なんで疑問形やねん。素直に言うとけや。で、そしたら風の噂がぴゅるりと舞い込んできてん。なんや刃舞伎町の半グレチームを1人でつぶした鬼みたいな高校生がおるゆうてな。で、いろいろ調べたら花村敬真、おまえの名前が出てきたんや」
「で、伊勢大吉さんは僕と闘いたいということですか」
「まさかのフルネームかい。はずいな、どっちかにせえ」
「では大吉さんで」
「さんはいらん。こそばゆい。わしも敬真と呼ばせてもらうわ」
「で、今日ですか?」
「いや、それなんやけどな。場所と時間は改めさせてもらいたいんや。極双も含む3つの高校の今までのトップだった奴らが、闘うのを見届けさせてほしい言うてな。せやから、今日わしが来たんは、ほんまに挨拶やってん」
「なるほど、ようやくわかりました。闘うのはいいですが、条件があります」
「ま、無理言うてるのはこっちやからな。おまけに敬真は別にワルゆうわけでもないしな、こっちが聞いたらなあかん」
「まず、今後莉香には近づかないでください」
「おまっ!いっちゃん最初の条件がそれかいっ!」
「大事です」
「う~~~~~~~…惚れたんは事実やけど、莉香ちゃんが敬真に惚れてるんはわかる。………しゃぁない……わかったわ」
「場所と時間はこちらで指定するのと、こちらも見届け人を連れていきます。大吉のことは信じれそうだけど、念を入れときたいので」
「せやろな、わかった。ほな連絡先交換しとこか」
◇
~姫宮莉香~
「敬真、あたし心配なんだけど。見に行っちゃ…ダメ?」
「ごめん、莉香。大吉だけならいいかなと思ってたんだけど、他にいるのだったら莉香は今回は待っててほしい。大丈夫だから…としか言えないけど。ちゃんと時間も場所も伝えるから」
「うん…っていうか、喧嘩するのに仲良くなっちゃったね」
「仲良くはないけど、憎めないやつだなって思う。ごめんね、莉香からするとあんまりいい気分はしないよね」
「ううん、憎めないってのは、あたしもわかるから。ちゃんと謝ってきたし。…でも近づかないでって言ってくれてありがとう」
「それこそ、ううんだよ。僕は最近ちょっと嫉妬深いから、莉香に男が近づくのがいやだって思っちゃうんだ」
「あたしだって嫉妬深いよ。敬真に女が近づくの嫌だもん…」
「じゃあ嫉妬深い同士だね」
僕は莉香の柔らかい胸に手を当てる。白く、どこまでもきめの細かい莉香の肌が少しずつ朱に染まってくる。手の中で硬くなった突起を指先でいじると、莉香が「ん♡」と色っぽい声をあげた。
「うん…きて、けいま♡」
僕は、自分の存在を莉香に刻み込むように強く莉香を抱いた。
◇
2日後、僕は粗ヶ崎と僕達の街の境界線となっている羽摩川の高架下にいた。場所と経緯については、師匠にも念のために連絡しておいた。
「風間君、急にこんな話を振っちゃってごめんね」
「別にいいぜ、ってか俺は見届け人としてで闘うことはないんだろ?」
「うん、だとは思ってるんだけど。話したみたいに、闘う本人以外に相手も不良が出てくるから、念のためこっちも動ける人がいてくれた方がいいかなって」
「ってか俺、花村に手も足も出なかったんだけど。お前から見て俺ってどうなの?強いの?」
「風間君は強い方だと思うよ。さらに言えば、サポエイラって使う人が少ないから、動きの予測がしにくくて初見殺しできると思う。最初で技や予備動作を見せなければ、かなり強いと思う」
「うーん言い方でちょっと凹みたくなるが、まぁ貴田先輩つぶしたお前の言葉なら自信持てばいいか」
「来たみたい」
「うーい、敬真ー、悪いなぁ、待たせてもうたか?」
「大丈夫だよ」
「この3人が見届け人や」
「極双の小林だ、お前が花村か…」
「鳳生学園の佐藤。ってか、こんなチビが本当に強いのかよ」
「賽原の田中だ。おらぁっ!!」
最後の田中という人が、いきなりパンチを打ってきた。なんというか、こういうの安心できる。フックパンチというのか、横から引っかけるように出されたパンチを避けながら、パンチを出した方の肩に手を添えて、田中の体を回す。一拍おいて、膝を出して重心を崩すと、田中はくるんと一回転半して、地面に倒れこんだ。
「あぁ!!?」
「へぇ、敬真おもろい技使うなぁ。じゃあやろか。お前らよう見とけよ」
大吉が舌なめずりをして、構えた。
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