♥27修学旅行



「暑いでござる!太陽が!汗がっ!」


「雅臣、うるさい」


「敬真氏は感動しないのでござるか!?」


「いや感動してるよ、でも、ほらその…」


「本当に敬真氏は、莉香殿がいないとダメでござるな~」


「その言い方がむかつくし、雅臣に言われたくない」


 僕と雅臣は、沖縄にいた。もちろん2人じゃなくて、周りには同学年の生徒達が全員いる。そう、僕たちは修学旅行に来ていた。莉香とはクラスが別なので隣にはいないけど、後で自由な時間になったら合流する予定だ。寂しいだなんて少ししか思っていない。


 11月になっても沖縄は想像よりも暑くて、太陽も僕たちの地域よりも高い位置にあった。空港について飛行機から出た瞬間に熱気を感じて驚いた。


 到着したその日の午後に皆でバスに乗って平和記念公園に行き、資料館を見たり、講話を受けたりした。自分が生まれるよりもずっと昔の戦争なので、想像すらもできないけど、展示されていた資料はなんだか妙に生々しくて胸が重くなった。


 国際通りでお土産屋さんを回ったりしたけど、初日でお土産ってあまり買う気にはならないと思う。だから、食べ歩きがメインになって、ポーク玉子おにぎりとか、アイスなんかを食べたりした。残念だったのは、クラスごとのバス移動の関係で、莉香とまわれなかったことだ。


 僕達は、そのままホテルに入ったのだけど、男女はフロア別で、エレベーターの前には先生も見張っていたから、マンガなんかでよくある修学旅行で女子の部屋にこっそり遊びに行く~なんてことも残念ながらできなかった。


 僕と莉香はスマホのメッセージアプリで、やりとりしながら初日を過ごした。





 2日目になって、午前中は文化体験でテーマパークに行った。パーク内は自由散策の時間になったので、僕と莉香は早速2人で鍾乳洞の見学をしたり、古い屋敷に上がったり、琉球衣装を着たり、ハブのショーを見たりして楽しんだ。


 途中の売店で買った赤いハイビスカスの髪留めが、派手めな恰好の莉香に似合っていて、本当にかわいかった。


「どう敬真?あたし夏っぽくない?」


「うん、かわいくてやばい」


「でもこれ、帰ってからも着けてたらちょっとずれてるよねー」


「旅行の時専用だね」


「そだね。敬真、また2人で沖縄に来ようね♪」


「もちろん!」


 莉香の笑顔が可愛くて、ぎゅっとしたくなって古民家の脇の人の来ないところでキスをしていたら、職員さんなのか色の真っ黒なおばあちゃんが通りかかって、「あいっ、でーじ、あちこーこーやー。しあわしになりよー」と言って去っていった。意味は分からないけど、たぶん祝ってくれたんだと思う。


 団体用の食堂で、沖縄そばの定食を食べた後、バスで移動して着いたのが今回の修学旅行の、僕達にとって一番の目玉『ちびらーさん水族館』だ。建設当時は世界最大を誇った高さ7.5メートル、幅20.5メートルの巨大なアクリルガラスの水槽がある3階建ての大きな水族館だ。


 巨大なジンベエザメがゆっくりと泳いでて、あまりの迫力に2人で手をつないだまま、しばらくボーッとして見ていた。この時、知らない間に雅臣に写真を撮られていたんだけど、青く光る水槽をバックに、手を握った僕と莉香がシルエットになっていて、とても素敵な写真だった。この写真は僕と莉香の宝物になった。(雅臣には修学旅行から帰ってから、ご飯を奢った)


 それからお目当ての売店に行った。『サメかわ』グッズを買うためだ。『ちびらーさん水族館』限定のグッズを莉香はほくほく顔で買っていた。僕は、もしかして特大ぬいぐるみがまた当たらないかと1000円くじに挑戦したけどさすがに外れた。それ意外にも、派手な色遣いの紅型の模様の入ったお守りキーホルダーをお揃いで買ったりして楽しんだ。





 3日目、さらに飛行機に乗って離島に行き、マリンスポーツやサイクリングなんかを楽しんだ。マリンスポーツはクラス単位での活動だったから、また莉香と離れてしまった。僕は、まだ腕にギプスを巻いていたので、見学にしておいたけど、皆はバナナボートとかかなり盛り上がっていた、その後、砂浜に戻ってきた雅臣と海を見てたら、思わず本音が漏れた。


「あぁ、マリンスポーツで莉香の水着をあまり他の男子に見られたくない」


「大丈夫でござるよ。派手な水着は禁止な上、ラッシュガード推奨でござるし、敬真氏のことを皆知ってるでござろうから、色目なんか使わんでござるよ」


「わかってるんだけどね」


「要は寂しいんでござるな。代わりとは言って何でござるが、拙者の水着でも見て心を癒すでござる」


「っていうか、そういう水着どこで買ってくんの…」


 雅臣の手裏剣柄の水着を見て、僕はため息をついた。





「あたしも寂しかったよ。敬真。あとね、安心して、ずっと上からラッシュガード着てたし、男子もいるから下はショーパン履いてたから♪」


 その日の夕食後の自由時間に、莉香がそう言って僕の頭を撫でた。思いきり見透かされているのが恥ずかしく、頭を撫でられているのもむずがゆい感じがしたけど、僕はされるがままになっていた。


 その後、星空観察会がホテルの芝生で行われた。生まれて初めて、満点の星空と天の川を見ることができて、僕は本当に感動した。星空ガイドがレーザーポインターでいろんな星の話をしてくれる中、僕と莉香は暗闇にまぎれて軽くキスをした。周りの生徒に少しばれていたかも知れないけど、それならそれでいいやって2人とも開き直ってた。





 4日目、午前中にお土産屋さんの並んだ商店街で最後の買い物をして、空港へ向かい帰宅して、僕達の修学旅行は終了した。


 いろいろなことを知り、体験した。莉香と一緒に体験できたのは、それらの半分くらいだったけど好きな人と感動を分かち合えることがどれだけ素敵か再認識できた。「また2人で沖縄に来ようね」と言い合っていたけど、沖縄だけじゃなくて、そして旅行だけじゃなくて、2人で一緒にもっともっと、いろんなことを分け合いたいって思った。





 修学旅行から帰ってきた日は金曜日だった。その翌日。僕と莉香は、僕の部屋で旅の写真を見せあいながら思い出を語り合った。知らなかった情報では、雅臣と愛さんが最終日の商店街で意外にいい雰囲気だったことだ。


「意外にあの2人会うのかもしれないね」


「そだね。でもオタクくんは、地下アイドルオタクやめられるのかな?」


「愛さんがハグとかしてあげたら、けっこうコロリと落ちちゃうかもね」


「…こういう風に?」


 莉香に抱き着かれ、僕も莉香の背中に手を回す。莉香の体が熱くて、その熱さが今日何を一番にしにきたか教えてくれているし、それは僕も同じだ。ただお互いが欲しい。莉香の唇にキスしたら、ぬるりと熱い舌が入ってきた。そのまま深いキスを続ける。


「……僕は、もう莉香に落ちちゃってるから」


「敬真ぁ…あたし、旅行中がまんしたんだよ…」


「僕もだよ…今日は覚悟して…」


「…♡」


 莉香と素敵な時間を過ごし終えて、ようやく僕の修学旅行は終わったんだと感じた。




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