何があっても平気な拳法くんも、美少女白ギャルにはかなわない♡
南星りゅうじ
♥1何があっても平気系男子
僕が師匠と会ったのは、僕が小学校2年生のときの春の日だった。場所は、近所の公園の隅っこ、植え込みの奥だ。
その日、僕はいつものように同級生にいじめられていた。いじめられた理由は、僕の体が小さくて力も弱く、顔も女の子みたいだったからだ。「やーい!女!」とか「悔しかったらやり返してみろー!」「やり返さないと男じゃないぞー!」とか言いながら、3人の同級生は、地面に横になった僕を蹴ってくる。
僕は、逆らわずに皆の蹴りを体に受けた。痛いところや痣になるような場所には当たらないように、少しずつ身をよじる。反抗するのは無駄だ。反抗したら、もっと激しくなるから。数分もしのげば、つまらなくなって皆どこかに行ってしまう。それまで、心を平らにして待てばいい。
そして皆が蹴り疲れて、反応しない僕に飽きてどこかへと去った後のことだった。
「おー、坊主、泣いてないのなー」
植え込みの向こうから、変な大人が声を掛けてきた。そもそも大人は、僕が蹴られているのを見ても声を掛けてこない。だから声を掛けてきた時点で変な大人だし、平日の公園の隅っこの方まで来るような人なんて、たぶんあまりまともじゃない。
その人は、背も小さくて、ひょろりとしていて、なんか昔テレビで見たことのある、自分の体を折りたたんで手提げカバンの中に入っちゃう芸人みたいな感じの人だった。
「坊主、悔しくないのかー?」
悔しくないわけがない。でも、無駄なんだ。体は小さくて、力も弱いのは本当だから、やり返せないし、例えやり返したとしても、その後がもっとひどいことになる。やりすごした方が僕の心は楽だ。僕が何も答えずにいると、その人はさらに聞いてきた。
「坊主さー、蹴りは平気なところに受けるようにしてたのかー?」
「えぇ、後が残るのは嫌ですし、親に心配させるのも嫌ですから」
なぜか、僕は答えてしまった。
「ふーん。そうかー偉いなー」
最初、「空が青いなー」って言ったのかと思った。そのくらい、何も気持ちがこもっていない感じで聞こえた。でも、その言葉は妙に軽く、爽やかに耳に入ってきた。
「坊主、強くしてや…いや違うなー」
その人は少し首を捻ったり、顎に手をあててぶつぶつと呟いた後、僕にこう言った。
「坊主、何があっても平気なようにしてやろうかー?」
正直言葉の意味は、そのときは分からなかったけど、僕はなぜだかその怪しい、変な大人を信じてみようって思った。だから「お願いします」と答えた。それが僕と師匠の出会いだった。
◇
師匠と会ったその後、僕はなんだかよくわからないままに、師匠を僕の家に連れていった。さすがに勝手に入れちゃいけないと思って、マンションの玄関のところで、母さんが帰ってくるのを師匠と2人で待った。今思えば師事を受けようとしている人に失礼だと思うけど、僕も気がつかなかったし、師匠も全く気にしてなかった。
しばらくして帰宅した母さんに師匠を紹介した。僕は母さんと2人で住んでいる。父親は僕が小さいときに事故で亡くなった。だから、母さんは師匠をもの凄く警戒してた。だけど僕がいじめられていたこと、師匠がそれを見たことの話になると、母さんは僕を抱きしめて「気づかなくてごめん」って泣いた。
少しして、師匠が僕に対してできること、僕ができることがあるという話になった。そして少しの月謝を払うことが決まって、師匠は僕の師匠になった。
師匠の名前は佐久川琉といった。琉は、そのまま、りゅうと読む。師匠は、『万流軟拳(ばんりゅうなんけん)』という拳法……拳法なのだろうか、ある程度修めた今でも疑問だが、とにかくそういう流派の達人だった。
「師匠、万琉軟拳なんて聞いたこともないし、ネットで検索しても何も出てこなかったんですけど」
「あぁ、俺しかいないし、宣伝もしてないからなー」
師匠に習い始めて間もないころに、聞いて返ってきた答えだ。小学校2年生から師事することになって、8年の月日が経って僕は高校2年になった。ずっと『万琉軟拳』を習っている。強くなった…というか、最初に師匠の言った通り、何があっても平気なように…なりつつあると思う。それもこれも師匠の教えのせい…おかげだ。
◇
その日、僕はちょっと柄の悪い人が多いと言われている県内の繁華街を歩いていた。時間は夜の8時で、チンピラとか不良とか、酔っぱらったサラリーマンや水商売のお姉さんなんかが通りのあちこちにいてニギニギしている。
「敬真、お前もう高2だよなー。そうだなー…とりあえず夜に刃舞伎町うろついて、からまれてこいよー」
ごめん、自己紹介が遅れて。僕の名前は、花村敬真。敬真とかいて、けいまと読む。そして、刃舞伎町はうちの県で1番治安の悪いエリアだ。本当はそんな所、うろうろしたくないんだけど、師匠に言われたのであればやるしかない。
7時過ぎからうろつきだして、成果は1件。肩のぶつかったヤンキーに絡まれて、路地裏に一緒に行き、そこで沈黙させた。師匠にノルマを聞いていなかったし、怠くなってきたので、もういいかなと思って帰ろうとしたときだった。
「や、やめて!ってか、触んなっ!」
僕の耳に飛び込んできたのは、怒りのこもった少女の声だった。目をむけると、そこにいたのは、僕の学校の有名人だった。名前は姫宮莉香。
ライトブラウンのロングヘアーに、大きな目と灰色がかった瞳。とおった鼻筋と少しぷっくりとした艶っぽい唇。文句なしの美少女。それだけじゃなくて、スタイルも良い。身長は高めで、ミニにした制服のスカートからスラリと長い足が伸びている。突き出た大きめの胸に、くびれた腰、程よいサイズのお尻…と全てが揃っている。学校1の美少女で、全男子の憧れとも言われている女子だ。
ちなみに僕がここまで詳しいのは、僕の友達が姫宮さんの話をよく教えてくれるからだ。隣のクラスなので、僕自身は時々しか見たことがなかった。
姫宮さんは、白ギャルというのだろうか、制服も着崩していて、普段から派手めな格好をしている。そして今も制服を着ていた。その姫宮さんがメイン通りの脇道近くで若い男2人に絡まれていた。
「ってか、行かないし!離してよ!帰るんだから!」
「いいじゃん、ちょっとくらいさー。エッチなことなんか、少ししかしないからさー」
「そうだよー俺達と一緒に遊べば、絶対楽しくなるからさー!」
姫宮さんの手を掴んでいる赤い帽子の男が1人、道路側で通行人の目をふさぐように赤いバンダナを頭に巻いた男が1人立っている。だぼっとした服を着たラッパー風の男達で、体も大きく威圧的な雰囲気を放っていた。
「いいじゃん、お互いいい思いできるんだからさ」
「そうそう、ってかさっきはエッチなこと少しって言ってたけど、たぶんめっちゃするわー俺。がんばっちゃうわー、ひゃははは」
「やめてっ!離してっ!」
「あーやばい。めっちゃそそる。車すぐそこにあるから、連れ込もうぜ」
「あ!?あんだよ、こっち見てんじゃねーぞ!」
目の合った通行人に怒鳴りつける男に、皆が目をそらす。そんな人達を責める気にはならない。僕だって、師匠に教わる前だったら絶対に通り過ぎる。だって怖いし、殴られたくないから。姫宮さんは可哀そうだけど、関わり合いになりたくない、それが本音だ。
でも、僕は師匠に何があっても平気なようにしてもらってる。だから、助けに入ることにした。ただ、助けた後に学校で目立ちたくないから着ていた厚手のパーカーのフードを深く被って、近寄っていった。
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