♥16夏休み始まる
~姫宮 莉香~
「明日から夏休みだけどなー、あまり羽目を外しすぎるなよー。高2の夏って、楽しいけど、けっこう大事な時期でな、将来何するかまだ考えていないやつがいたら、この夏休みの間に、少しでも探してみたり、体験してみるのがいいぞ。よし、じゃあ解散ー!」
HRと同時に1学期が終わった。あたしも敬真くんも当然補修の心配はないし、部活にも入っていないから夏休みは一緒に遊べる。でも、ちゃんと勉強もする。そういえば、敬真くんは将来の夢とかって何か考えているんだろうか?あたしは、あたしで考えていかなくちゃだけど、そこに敬真くんのお嫁さんというのも加えていいだろうか?いや、加える。えへへ。
「莉香の顔が緩んでるし。初めてを済ませてから、顔がやばいww」
「ラブラブだもんね。夏休みの計画はたてたのー?」
「ま、まだ立ててはないけど…。でも愛と絵美も一緒に遊ぶでしょ」
「「もちろんでしょ」」
「姫宮ー、ちょっといい?」
愛と絵美と一緒に笑っていると、同じクラスの男子に話しかけられた。敬真くんと会う前までは、たまに遊びにいくこともあった男子グループの1人だった。刃舞伎町の新しいカラオケに行っていたのも彼らとだ。敬真くんと会って以降は、何度か誘われたが断って距離が開いている。
「姫宮さー、夏休みに久しぶりに一緒に遊びに行かねえ?親父がクルーザー出してくれるからさ、船上バーベキューやろうぜ?」
グループのリーダー格の佐々木精一君だ。佐々木君は親が大きな会社の社長でお金持ち。明るい茶色に染めた髪に、金ピアス、顔も良くて爽やかなので女子にファンが多い。お小遣いを月に何十万もらっているそうだけど、気前も羽振りもよくてお金を惜しげもなく使うから、取り巻きも多い。
遊びに行くときなんかも、女子の分も当然払おうとするんだけど、あたしも愛も絵美もなんか奢られるのが嫌だったから自分達の分は渡した。当然断られたけど、受け取らないんだったら2度と遊びに行かないって言ったら、そこからは受け取るようになった。以前に「俺達つきあっちゃわねえ?」とか軽く言われたことがあるが、当然断った。
「ごめんね、佐々木君、あたし彼氏できたから遊びにはもういけないんだ」
「別に彼氏いたって遊びに行ったっていいじゃん?彼氏ってば束縛系?」
手を合わせて謝るあたしに、笑顔で返す佐々木君。相手の言っていることを軽くみるようなところはあまり好きじゃない。とは言っても友達だし、昔はそんなに気にもしてなかったけど…敬真くんとあった今、佐々木君が少し子どものようにも思えてしまう。
「ごめんね、あたしが嫌なんだ」
「そっか、わかったよ。2人も行けない感じかな?」
「そだねー莉香が行かないなら、私らもいかないかなーごめんねー」
「また誘うときがあるかもだから、そんときはよろしくねー」
「あいあいー」
「莉香ー?でさ、夏休みはうちらはどうするー?」
佐々木君は笑いを浮かべて去っていったけど、あたしに背をむけた瞬間にその笑顔がなくなって何か暗い雰囲気を出したような気がして、あたしの心にほんの少しだけ不安がよぎったのだけど、それは夏休みの話ですぐに流されてしまった。
◇
「敬真は、夏休みどうするの?」
僕と莉香は、冷房の効いた部屋でお互い裸で抱き合っていた。放課後、2人で僕の家に来て、まず勉強をしてから、その後はこうやって一緒に過ごしている。汗ばんで火照った体に冷房の風が気持ちいい。莉香の頭や、白くてすべすべした背中をなでながら、ほわほわとした気持ちで満たされているこの時間がとても好きだ。
そう、期末テスト明けに莉香さんとの初めてをしてから、お互いの呼び方を「敬真」「莉香」に変えた。なんか、それだけでよりお互いを強く感じ会えるような気がしている。
「勉強するわけだから基本的には2、3日に1回は莉香と一緒でしょ?それ以外は、師匠と練習とか、あとバイトを少しするかも?」
「バイト?何をするの?」
僕は夏休みに何日かバイトを入れることにしていた。遊ぶお金も欲しいし、後は恥ずかしい話なんだけど、ゴムとかって高校生の僕が買うには少し高いというか。いや、そんなに何個も使わなければいいのかもだけど、使っちゃうから。
「師匠に相談したら、他流派との交流会があって、それに出てくれたらわりといい日当をくれるって。それが何回か入ることになると思う」
「その交流会って、あたしとか見学にいっちゃダメなのかな?」
「聞いてみるけど、たぶん大丈夫だと思う」
「やった!敬真との予定がまた埋まった!えへへ」
嬉しそうに笑う莉香がかわいくて、かわいすぎて、胸の奥から愛おしいって気持ちが湧いて出てくる。色に溺れるなって師匠には昔から言われてるけど今の僕は溺れてる状態なんだろうか?でもとりあえず今は。
「莉香、もう1回…」
「もう敬真…いいよ、あたしも……したい♡」
◇
「敬真、あんた莉香ちゃんと順調?莉香さんに愛想尽かされてない?」
「順調だよ。愛想は…大丈夫だと思う」
「なら何よりね。ほら、あんたにこれ上げるわ」
そう言って母さんに渡されたのは、高級ホテルのプールチケットだった。
「母さんの会社の取引先の人からもらったんだけどね。私が行くよりも、せっかくだったら莉香ちゃんと行っておいで、宿泊はできないけど、夕方までだったら部屋も使えるから、ちょっと豪華にデートしておいで」
「あ、ありがとう母さん!嬉しいよ」
「それとほら、これも。軍資金」
母さんはさらに机の上に、1万円を置いた。
「いや、これは受け取れないよ!」
「いいんだよ、夏休みだろ?特別お小遣いってやつだよ。敬真は莉香ちゃんのおかげで成績が上がったんだろう?ならこれは、私からのあんたを通した莉香ちゃんへのお礼だよ。しっかりと楽しんで、いや楽しませておいで」
「母さん……ありがとう。じゃあ、もらうよ」
◇
「というわけなんだけど、莉香、よければエピナスホテルのプールに行く?」
「行く!行く!行く!」
喰い気味でのってきた莉香の返事に、僕は笑顔になる。
「っていうか、いいの?エピナスホテルのプールって、めっちゃ豪華で!人も少なくて、プールサイドでゆっくりできるっていうから1回行ってみたかったの!でも1人7000円もするから、さすがに無理だなーって諦めてたの。だから、めっちゃ嬉しい!」
「よかった、喜んでくれて」
「あ、じゃあ、敬真、水着買いにいこう!あたしも去年のだとサイズが合わなくなってるから、ちょうどよかった♪」
サイズのところで、思わず莉香の胸を見てしまう。僕の視線に気づいた莉香は、にやりと笑って、胸を突き出すようにして僕に言った。
「敬真がたくさん…触ってくれるからかな?…去年より少しだけ大きくなったんだよ?」
あぁ、僕の彼女がかわいすぎる。すぐにでも莉香を押し倒したくなるが、まだ今日は始まったばかりで勉強だってこれからしなきゃいけない。
「じゃ、じゃあ…と、とりあえず勉強から先にやろう!」
「う、うん、あとでね…!」
夏休みは始まったばかりだ。窓から見える青い空と白い雲がまぶしく見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます