♥9カレカノ
「……付き合ってくれたら、瑠々のおっぱい、花村君の好きなようにしていいよ。もちろん、その先だってしたいこと、何でもしていいから……」
目の前で大きな胸を寄せながら、月浦瑠々は僕をじっと見つめてくる。僕が告白の返事をする前に1つ確認しなければならないことがある。
「えっと、月浦さんが言っていた2人の大事な話って言うのは?」
「うん、瑠々と花村君の…だよ?」
僕は、やられたって思った。2人と聞いた時に、僕と莉香さんの話だと思ってしまっていた。月浦さんが、何も考えずにそう言ったのか、もしくは何かの意図があったのかは、わからないけど。
「じゃあ返事をしないとね」
「うん、瑠々と一緒に楽しいコトいっぱいしよっ♪」
「月浦さん、僕は君とは付き合わないよ」
「え…?どうして?瑠々、こんなに好きなのに…?」
「うん、月浦さんと話してても、胸をみてもドキドキしないんだ」
いや、全くドキドキしないといえば嘘になるけど。でも師匠から受けた教えの中には、女性に対すること、はっきり言えばセックスに関することも含まれていたから、こういう時も慌てないで済んでいる。もちろん莉香さんには絶対に言えないことだけど。
月浦さんが自分の体を使って僕を落としたいと考えているのはわかるのだけど、その目的がわからない。月浦さんが誰かとセックスだけしたいなら、僕を選ぶ理由もわからないし。
「いや…やだ…」
月浦さんが抱き着いてこようとしてくるのを、『意感』で察知した僕は、月浦さんが足を前に出すより早く後ろに下がる。
「じゃあ、そういうことだから」
僕は振り返らずに踊り場を去った。
◇
「敬真くん、お願い。隠したりしないで、あたしの質問に答えて」
翌日の昼休み。お弁当を広げる前に、莉香さんから、何と言うか鬼気迫る表情で迫られた。
「う…うん、答えるけど…」
「敬真くん、月浦瑠々って知ってる?昨日何を言われたの?」
「あぁ、昨日、その人に告白されたんだ」
「!!」
「け、敬真くんは、なんて返事したの!?」
「もちろん断ったよ」
「良かったぁ……」
はぁ~~~と深く息を吐きだして、莉香さんは胸を撫でおろした。目の端に少し涙のようなものが見えた。
「あの、そのこは、告白のときに何て言ってたのか聞いてもいい?」
「うーん、あー……自分の体を好きにしていいって…」
「やっぱり…敬真くん、断ってくれてありがとう……」
「えっと、あの人は莉香さんの知合い?」
「知り合いじゃない。同中だけど、その頃からあたしに何かと対抗心というか、ウザがらみしてきてて…」
「そうなんだ…」
「うん、あたしがちょっといいなって思ったり、仲がよくなりそうになった男子を誘って、その…えっちなことして、飽きたら捨てるっていうか…とにかくそんな感じなの」
女のこ同士でも何かとあるのはわかるけど、思っていたよりも酷かった。そして月浦瑠々が僕に声を掛けてきたのが、莉香さんに対する対抗心だというのが理解できた。いや対抗心だということは理解できたけど、それで体まで使うという発想は僕によくわからない。
「敬真くんも…そのえっちなこと……したいと思う?」
「んー、まぁ男だから、やっぱり多少はね」
「あの、敬真くん!すぐはまだ…心の準備っていうか……あ、あのあたしだったら、敬真くん…いい…からね」
顔も耳も真っ赤にした莉香さんが俯きながらぼそぼそと呟く。僕の中をドキドキが埋め尽くして、渦巻いて…それは自然な言葉になって出てきた。
「莉香さん、好きだよ。付き合って」
「!!!」
莉香さんは、目を大きく見開いて僕を見た。灰色がかった瞳がキラキラッと輝いたと思ったらみるみる間に涙が溢れてきて…そしてそのまま嬉しそうに笑った。
「うん!付き合う♪」
莉香さんはベンチに座ったまま僕に抱き着いてきて、泣きながら何度も「うん」と言った。あぁ可愛いな、言ってよかったな、あ、でもこの流れだとえっちしたいから付き合ってって告白した感じになっちゃうのでは……などと思っていたら、ふと周りの景色が目に入ってきた。
昼休みの中庭のベンチ。何人もの生徒が僕達を見ていた。女子は音にならない拍手を送っていたり、もらい泣きをしていて。男子はボリュームを抑えた歯ぎしりや唸り声をあげていた。
◇
~姫宮 莉香~
愛と絵美が、涙の止まらないあたしの背中をさすってくれて、「よかったね」って何度も言ってくれる。あたしも何度もうなずく。
敬真くんからの告白の後、泣きまくった顔をどうにかしたくて、恥ずかしくて、あたしは敬真くんにお弁当を渡して、教室に戻ってきた。一部始終を見ていた愛と絵美も戻ってきてくれて一緒になって喜んでくれた。
「しっかし、こうなると月浦瑠々に逆に感謝じゃんね」
「あーぁ、これで莉香も彼氏できちゃったかー。絵美も大学生の彼氏とラブラブ。後は私だけじゃんー」
愛が口をとがらせる。
「適当にからむ男子がいればそれで楽しいと思ってたけど、私も本腰入れて探すかなー」
「愛もすぐ見つかるよ!」
「莉香の発言が、ちょっと前と手のひらクルクルでうけるww」
「さー、これから莉香はもっと大変になるねー」
「どうして?」
「えー拳法君が正式に彼氏になったんだったら、えっちだってするでしょ。そしたら、しばらくは勉強とかも手につかなくなるかもよー」
「あ…」
3人の中で処女なのはあたしだけだ。絵美は大学生の彼氏、愛も今はいないけど元彼と経験がある。女子だけの話だと、けっこう生々しい話もよくするのだけど、あたしは2人からこれまでに聞かされてきたことを思い出した。
「あの…愛も絵美も。ちょっとまた、いろいろと相談させてもらうこともあるかもだから、話聞いてね」
「「あい、うけたまわりー」」
落ち着いてきたら、お弁当を抜いたあたしのお腹がようやくクゥと小さく鳴いた。
◇
僕と莉香さんは、告白の翌日は少しぎこちなかったけど、すぐ落ち着いた。変わったことと言えば、莉香さんからの距離が近いこととボディタッチが多くなったことだ。それが恥ずかしくも嬉しくて、僕はいつもドキドキしながら楽しんでいた。
さらに数日が経って、朝のHR前の時間のことだった。
「花村君ってのはいるかい?」
僕達の教室を3年の先輩が訪れた。熱い胸板、太い腕、丸太の様な太腿をしていて背が高い。刈り上げたツーブロックの短髪で、眉も整えていて、おしゃれにも見える。
僕が特に気になったのは、目と耳だ。糸のような細い目からのぞく瞳はとても冷たく、耳はつぶれて盛り上がっている。レスリングや柔道のような寝技の多い格闘家は練習を重ねることで、畳やマットに擦れて耳がぷっくりと膨れてつぶれたような形になる。俗に柔道耳、餃子耳と呼ばれるものだ。
「はい、なんでしょうか?」
「ふぅん、君がそうか」
その先輩は、じろじろと遠慮なく僕を見つめてくる。視線が何を探っているかがわかる。僕は強いかどうか、何をやっていそうかを探っている。
「自分は貴田だ。なに、最近になって2年に、なかなか強い人間がいると聞いてね。後学のために、部活体験会にでも招待できないかと思ってね」
2年になって部活体験会も何もないものだなぁと思うが、僕に否はない。
「どちらに向かえばいいですか?」
「ふぅん…花村君は恐いものがないのだね。放課後、体育館に来てくれ」
「わかりました」
貴田先輩は、僕の肩に手を置いて顔を近づけると、僕にだけ聞こえるように言った。
「月浦瑠々。俺の彼女をレイプしようとしたお前を許すわけにはいかないな。折られた骨を見て後悔するんだな。逃げずに来いよ」
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