第32話 素材
私は侍女に案内され応接間に来ている。
すると部屋の中にはマドック公爵と50代前半の紳士が居た。
「やあ、レナさん。呼び出して悪かったね」
そう言うとマドック公爵はソファーから立ち上がり、50代前半の紳士が座っている隣の席に移動した。
「さあ、座って話そう」
着席を勧められ私は腰かけた。
「私にどんなご用でしょうか?」
「そうだったね。まずは紹介しよう。この屋敷の当主、グレタ公爵だ」
そう言うと黙っていた紳士が話し出した。
「君の収納魔法は凄いな。この屋敷に来て侍女の部屋に出した、荷物の量を聞いて驚いたよ。これならちょっとした軍事移動の物資に匹敵する量だ」
「どうだね、私のところに来ないかね?冒険者をやっているよりも報酬は出そう」
「あっ、いえ、特に生活には困っておりませんので。今のままで…」
「グレタ公爵、誘っても無駄だよ。私もすでに誘ったが断わられたからね」
「そうだったのか…。残念だ」
「では話を変えよう。ブラッディベアを倒したと聞いたが本当かね?」
「本当です」
「ブラッディベアのように高位の魔物は中々、倒せるものではない。この機会にぜひ見せてほしいのだが」
「わかりました。どこで出しましょうか?」
「では中庭にしてもらおうか。さっそく移動しよう」
そういうと私達は立ち上がり部屋を出る。
屋敷の中は晩餐会に向けて侍女が、忙しそうに走り回っている。
「さあ、ここに頼むよ」
中庭に移動しストレージからブラッディベアを出した。
〈〈〈〈〈 ドンッ!! 〉〉〉〉〉
見ていた人達は軽くジャンプした。
「おぉ、これは見事な…」
するとそこに小柄な男性がやってきた。
「全長は2mはありますな。爪や牙は良い素材になります。それから肉や毛皮、魔石も、無駄なところは一切ありませんな」
「グレタ公爵、この方はどなたでしょうか?」
「これは失礼しました、マドック公爵。この男は我が屋敷の鑑定士チャロです」
「チャロです。よろしくお願いいたします」
「この男は鑑定スキルを持っているので重宝していますよ」
「そうですか。それは凄い」
「ところでレナさん。このブラッディベアは、いくらで売ってもらえるのかね?」
「ちょっと待ってください。その話はこちらが先です」
「おう、そうでしたかマドック公爵。お幾らの予定ですかな?」
「そうですね、500ベーロ(500万円)出そう」
「ほう、そんな額とは…。当家なら600ベーロ(600万円)だ。どうかね?」
どうかねと言われても、この世界のお金の単価にピンとこない。
庶民の年間所得が150~180ベーロだとすると3年分の所得になる。
しかもまとまった額を目にすることは、中々ないことだろう。
「う~む、それならこちらは、と言いたいところだが、出せてもグレタ公爵と同じ600ベーロだな」
別にいくらでもいい気がしてきた。
「わかりました。マドック公爵にお売りいたします」
「おぉ、そうか!!ありがとう、レナさん」
「いいえ、一緒に怖い思いをした仲です。戻ってからお話いたしましょう」
「いや~、ありがとう。良い防具ができそうだよ」
「まあ、仕方がありませんな。今回は諦めるとしますか」
グレタ公爵が残念そうにつぶやく。
「グレタ公爵見てください!!この小さな穴は何でしょうか?」
鑑定士チャロさんが声をあげる。
銃弾を撃ち込んで倒したので、所々血が出ている。
だけど洗い流せば穴なんて毛足に隠れて見えなくなる。
ある意味、綺麗な倒し方?
「それは私のスキルなのでお教えできません」
そういうと私は再びストレージにブラッディベアを収納した。
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