第43話 交渉

 ライナルの街に入ろうとした時、商人風の男に話しかけられた。

 馬車2台に護衛を6人連れ御者ぎょしゃと使用人だと思われる人たちも一緒だ。

 馬車は荷物をたくさん積んでいた。


「あぁ、これですか?キックボードです」

「キックボードですか?」

「そうです。板に乗り脚で漕いで進むんです」

「とても早いよ~、#わたち__・__#でもできるんだよ~」

「そうだね、ヨランデは早かったね。タラスの街からあっという間にきたね」


「なんと?!それはどこで売っているのでしょうか?」

「販売はしていません」

「ではどこで手に入れられたのでしょうか?」

「レナおねえちゃんがエイッ!て出したんだよ」

「それは?!マジック・バッグをお持ちということでしょうか?」

「えぇ、まあ…」

「それは羨ましい。キックボードをよく見せて頂けないでしょうか?」

「どういうことでしょうか?」

「もうし遅れました。私はこの街で商人をやっております、サンドロと申します」

「私は冒険者のレナです」

「冒険者の方でしたか。実は商売を長年この街でやっておりますが、ここに無いものを他の街で仕入れて売る、それを繰り返してきました。しかし歳にはかないません。他の街に仕入れに行かなくても、需要のある物が何かないかと思っておりまして」

「あぁ、そういうことですか。購入するのは無理だと思います」

「どうしてでしょうか?」

「実はそこの工房が高齢化で辞めてしまいまして、これが最後の一品です」

 そういうと私はストレージから、キックボードを1台創ってだした。


「拝見させて頂いてよろしいでしょうか?」

「どうぞ、よく見てください。ここをこうして、こうやると…」

「ふむ、ふむ、ほほう~、なるほど、これは速い」

 サンドロさんはキックボードに乗り、子供のようにはしゃいでいる。

 しばらく遊んで満足したようだ。


「素晴らしい。是非これを売っていただけませんか?」

「いいですけど、おいくらで?」

「その前にお伺いいたしますが、キックボードは特許を取っておりますか?」

 そんなことがある訳がないでしょ?

「いいえ、取っておりません」

「それなら事前に職人ギルドで特許申請をしておきましょう。これを見れば誰かが同じことを考えるでしょうから」

 でもマネできるの?


「そして我が商会にその権利と、キックボードを売って頂けないでしょうか?」

「かまいませんけど」

「それはありがたい。特許の権利とキックボードで200万円でどうでしょうか?」

「ん?200万?」

「あっ、そうですね。そんな訳はないですね。では220いいえ230万でどうでしょう。もうこれ以上はちょっと…」

 サンドロさんが一人芝居をしている。

 実際に相場がわからないけど、言い出した金額が相場より低いか相場なのだろう。

「ではそれでいいです」

「ありがとうございます。構造はこのキックボードを鍛冶職人に見せて、作らせようと思っております」

「わかりました」

「さあ、参りましょう。さっあ、さっあ、あっさあ~」

 手を引っ張らないで…。

 て、歌舞伎か?


 こうして私たちは身分証を見せて街の中に入った。


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