第17話 少女の心〈1〉
その朝、僕の住む街に雪が降った。
雪は浅く積もって花嫁のベールのように町中を覆った。
僕の画材屋へ謎が持ち込まれたのは遅い午後のことだ。
濃紺のダッフルコートを着た中学生と思われる少年が
「あの、このお店で画材を購入したことはないのですが、HPは読んでいます。謎を解いてくれるんですよね?」
既に何回も繰り返しているけれど、ご承知のごとく僕は両親から引き継いだ画材店の宣伝もかねて(まぁ、ほんの
「僕たち、とても困った状況に
少年は続けた。
「僕の名は
「とりあえずお座りください」
カウンターの前に折り畳み椅子――例のゴッホの椅子は不公平にならないよう今回は壁の後ろへ退けた――を三脚並べて
「あ、こちらは
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
これも珍しいことではないけれど店内に他に買い物客はいなかった。
お互い自己紹介をし合った後で、三人の依頼人はコートを着たまま椅子に腰を下ろし、代表して少年が話し始めた。
「まず、ありのままに今日あった
「僕の母はお茶の先生をしているんですが、今朝、茶道教室に使っている茶室の
ここで生駒君はちょっと息を継いで言い添えた。
「僕と詩帆さんは幼稚園以来の
その時の心境を再現する如く少年はガックリと両肩を落とした。
「僕が詩帆さんの待つ自室に戻ると、ほどなく帰宅した母が僕の部屋に顔を出しました。台所に置いたお裾わけに気づいたらしく詩帆さんにお礼を言って、コーヒーと、お土産に買って来た銀山町で人気のケーキを差し入れてくれました。僕、ここのジュピターってケーキが大好きなんです。でもその時、母が言った言葉に僕は飛び上がりました。母は言ったんです。
『茶室の掛軸、どうしたの?』
意味がわからなくて訊き返すと、『ここへ来る途中、茶室の
詩帆さんは首を振って、
『いえ、私、まだ見ていません』
『え? 見ていないの?』
僕は咄嗟にこう言い
『ごめん、ママには後で話すつもりだったんだけど、週明けの美術部の模写大会に使おうと思って、僕が取り外してバッグに仕舞ったんだ。月曜に部員全員に一斉に見せるつもりさ』
『模写大会? あら、楽しそう! いいわね!』
母は大らかでモノに
少年は唇を舐め、首をまっすぐに立てると、言った。
「掛軸は
確かにこれは難問だ。
この中の誰かが真相を知っている? そして、掛軸は何処へ行った?
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