第28話 警告〈1〉
「見てください、完成しました!
その人――
「そんな、アドバイスだなんて。全て梓さんの実力ですよ。でも、こんな素晴らしい絵の製作に微力ながらお手伝いできて、僕も嬉しいです」
「いえ、私一人ではこうは描けなかったわ。特にここ、指輪の質感。輝きといい、色といい……ね? ホントに写真と同じだわ」
ポケットから
写っているのは70年代に流行したジプシー風、いわゆるボヘミアンスタイルの若い娘だ。ストレートの長い黒髪、額にはピンク色の
顔は目の前の梓さんとそっくりだ。
だから、最初、『書きあぐねているんです。この指輪の色、何色がいいと思います?』と相談された時、写真の人は、梓さんだと僕は錯覚した。
――自画像を制作中なんですね?
梓さんは即座に首を振って、
――違います。これは祖母です。
だが、すぐに頬を薔薇色に染めて――それこそ指輪の色だった!――ホルベイン油絵具名でいうなら、プリリアントピンク、クリムソンレーキ、ピロールオレンジ……
――でも、嬉しいわ! 似てるって言っていただけて。自慢の祖母、私が世界中で一番大好きな、憧れの人なんです。
こうして岡田梓さんは僕の店、桑木画材店の常連客になった。高校、短大と美術部に所属していてIT企業に勤める現在も趣味で週末は絵筆を握っているとのこと。
「三年前、祖母が亡くなってから、ずっと肖像画を描きたいと思っていたので、こうしてしっかりと描き上げることができて感無量です。だから、一番に、お二人にお見せしたくって持って来ちゃいました」
「最高に素敵です!」
「ああ、私も、いつか、こんな肖像画を描いてみたいな!」
「ヤダ、来海ちゃんなら、私なんかよりずっと素晴らしい絵が描けるわよ!」
「やっぱり、ここだったか、梓。家を覗いたら留守だったからピンと来たよ」
セーブル色の扉が開いて青年が入って来た。華奢で小柄、男らしいというよりアイドル然とした可愛らしい
「瑞々しい茄子と新鮮なラムのミンチ肉が手に入ったぞ! 今日は腕によりをかけて本格ムサカを作るからね」
「やったー! ありがと、
若いカップルは弾む足取りで店を出て行った。その後姿を見送りながら来海サンが再度、ホウッと息を吐く。
「お似合いねぇ、あの二人!」
異論はない。まさに幸福を絵に描いたような恋人たち。二人の前途に幸いあれ!
ところが――
数日後、僕の画材店の扉を押して入って来た青年の顔は激変していた。
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