第27話 宝石の隠し場所〈4〉
「ハッピーバースディ、
その日、いつものように下校時に僕の店へ顔を出した来海サンに僕はクラッカーを鳴らして叫んだ。
三月十日。今日こそが彼女の正式な誕生日だ。
ちょっと豪勢なバースディ・ディナーは週末にイタリアンレストランに予約済みだ。でも、レストランでプレゼントを差し出すより、僕たちが出合った、まさにここ、桑木画材屋の店内で、僕にとって最初の〈来海サンの誕生日〉の贈り物を渡したかった。
ああ、男って、
「さあ、受け取ってくれ、僕からの誕生日のプレゼント!」
僕が颯爽と差し出したそれは、牛乳石鹸の赤箱。
どうだ、驚いたか!
けれど、来海サンは微動だにしなかった。
眉一つ動かさず、至って落ち着いて真っ赤な紙箱の蓋を開けて石鹸を取り出す――
そして、言った。
「悪いけど、
「う」
「私は、待てない人間なのよ」
来海さんは通学鞄からペンケースを出し、カッターを掴んだ。
「毎日朝夕、この素敵な花の香りの石鹸を泡立てて手を洗って……遂にある日、泡ブクの中にソレを見つけて息をのむ――なんて期待してないわよね、新さん?」
「あ、やっぱり? 気づいてた?」
アガサの隠れた名作、珠玉の連作短編〈おしどり探偵〉の
おっと、未読の読者のためにこの部分は以下、
さて、JKは石鹸にゆっくりとカッターの刃を差し入れて、割った。
中から小さな塊をそうっと摘まみ出す。
「えー! 何、この色……なんて……素敵な色――」
これだ!
僕は、成功した!
つまり、僕が見たかった顔を彼女は今、ここで見せてくれた――
闇を貫いて射す最初の光、朝日のように煌めく瞳。
彼女が見つめる
そうして、頬も! 空一面を染めて行く太陽の色さながらにほんのりと色付いて行く……
その美しく紅潮した頬のまま来海サンは叫んだ。
「
うん、ほんとに、
「なんて名なの、この宝石?」
僕は
「名はペツォッタイト、俗称は、まさに今、君が言ったそれ、ラズベリーに似た色からラズベリルとも言う」
「ラズベリル……初めて聞いたわ。宝石言葉はなに?」
「ない」
「え?」
「正確に言うと
ペツォッタイト=ラズベリルは天然ベリルの変種で、限られた鉱山で
2002年11月マダガスカルの某鉱山で発見され、翌2003年IMA国際鉱物学連合にて認定された新鉱物である。
「この石について教えてくれたのは進藤ハナさんの御主人、宝石鑑定士の
両方ともまだ未定。
このルースは、新参の、新しい希少石ゆえ、誕生月も、宝石言葉もまだ決まっていない。つまり、未定。
君の人生、これから歩む先の
ほら、君の前には真っ白な未知の明日が広がっている――
願わくば、これからも毎年、君の誕生日を祝えますように。勿論、君の真横には僕がいて。そういう日々を積み重ねて……いつか、煌めく星の塔を築けたらいいと僕は心底思っている。
どんな時も僕は君の一番近くにいたい。
レジカウンターの上に用意した〈ハローキティ〉――これも新種のラズベリーカクテルの名だよ。但しジン抜き。正式レシピは二十歳になってからな!――を手渡すと、僕は高くグラスを掲げた。
「君の瞳に乾杯!」
( 第7話:宝石の隠し場所 FIN.)
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