4-2

 どこを見ているのだろう。

 釣られて、俺も視線を向ける。

 だが、確認するまでもなかった。聖域には、俺は、幾度となく足を踏み入れているのだ。

 宇宙船。

 そこに、バケムクロによって飛ばされた岩が、無情にも落下していたのだ。


「おいおい、おいおいおい!」


 どうにか直撃は免れたようだったが、このまま、ここで戦闘をつづけていれば、被害は確実に避けられない。バケムクロを片づけるのよりも先に、宇宙船のほうが、粉々に破壊されてしまうだろう。


 同じことは、隊長も思ったはずだ。

 だが、それからの行動は、俺の想像とはまるで違った。


「マイ! みなを連れ、早く乗りこめ! ヨキ! 今からお前がリーダーだ! け! 必ず、お役目を果たして来い!」


 俺は、一瞬、ためらった。

 当たり前だ。

 俺が隊長を代わりにする、という点もそうだったが、医者のいない部隊で、クシナを出ていくことが、現実的ではないように思われたからだ。


 急いで、こいつを始末するしかない。

 俺は、反射的に剣を抜いていた。

 しかし、それを見越した別の兜割かぶとわりが、俺の前に立ちはだかる。


「お前のお役目はなんだ、上閲じょうえつ補佐!?」


 かけられた言葉が、おのずと、モタカ先輩の台詞を思い起こす。


『俺の代わりに、上閲じょうえつを目指してくれ』


 悲痛な願い。

 俺よりも長い時間、上閲じょうえつを夢見ていた仲間が託した、希望と諦観。

 ややもすると、見過ごしてしまいそうなほど、それは短い言葉だったが、込められた思いは、まさに万感と呼ぶにふさわしい。


 俺がやる。

 モタカ先輩のためにも、俺がやらなければならないのだ。なぜ、そのことに、もっと早く、俺は、気がつけなかったんだ。


 吠えた俺が、兜割かぶとわりを見返した。


「行きます!」


 構えていた剣をすぐさましまい、俺は、茫然と立ち尽くす面々の腕を取って、宇宙船へと走りだす。


「それでいい……」


 ウスク隊長が安心したように、再び目を閉じた。

 それを横目に、俺たちは、宇宙船へと乗りこんでいく。

 操作の方法など、まるでわからない。

 現地で、上閲じょうえつから、簡単なレクチャーを、されるはずだったからだ。

 とにもかくにも、動力だけは必要だろうと、俺は、急いで魔鉱石をばらまいた。まもなく、その船体が勝手に浮上しはじめる。


「どうすんだよ、これから……。俺らに、操作方法なんてわかるのか?」


 みんなの気持ちを代弁する、オオミの言葉には、シイナが応じていた。


「戦闘ならともかく、日常の魔法なら、たぶん、あたしが一番詳しいでしょ。なんとかやってみるよ……。それより、問題なのは、魔力のある星を、どうやって見つけるのか、ってほうじゃないの? どうすんのよ、これ。行き先が決めらんなきゃ、魔力の調査もなにもないじゃない……」


 もっともな疑問だ。

 そして、その問いには答える者がいない。

 みんな、隊長である俺の言葉を待つように、じっと顔を見つめて来ている。

 だからこそ、俺は、みんなを安心させるように、ひときわ大きくうなずいてみせた。

 未知の星に何が必要なのかと、持ち物の整理をしていたときに、俺が思いついたアイディア。それは、師匠やウスクさんの知恵を借りて、正式な魔力の探査方法へと、変わっていた。


「大丈夫だ。それについては、ちょっとした考えがあるんだ。任せてくれ」


 この瞬間、俺たちの、長いながい旅がはじまった。

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