8-4

 それからしばらくして、定期通信の日にちとなった。

 前回、ウスク隊長が、上閲じょうえつに俺たちの現状を、説明してくれると話していたので、師匠が受け答えしてくれるのだろうと、そう思っていたのだが、どうやら違った。応答したのは、もう一人の上閲じょうえつである、タイチさんだったのだ。


「ワクカナさんじゃなくて、僕で悪いね。ヨキ君、久しぶり」


 気さくにしゃべるタイチさんに向かって、俺は、笑顔を見せながら返事する。


「お久しぶりです、タイチさん。珍しいですね」


 クシナのさとに、上閲じょうえつ補佐は全部で五人――いや、モタカ先輩が抜けたので、四人か。当然ながら、それだけの数を、師匠一人で面倒見ることはできない。子弟関係は、俺の師匠であるワクカナさんのみならず、人によっては、タイチさんと結ぶことになるのだ。俺は、ワクカナさんの弟子なので、必然的に、タイチさんと関わる機会は、お役目という意味では少なかった。


 定期の通信は文字どおり、都合のよい日付を、お互いに指定して行うものだ。今日が、師匠が聖域に行く日なのだとしても、これは急な連絡ではないのだから、お役目の順番に、融通を利かせることはたやすいはず。第一、時間帯を夕方にするよう、ウスクさんが言って来たのは、上閲じょうえつが聖域から戻るのを、確実に待ってから、連絡を寄越してほしい、という意味合いだろう。


 師匠の身に、何かあったのだろうか?

 不安になった俺は、重ねて口を開く。


「師匠は、どうかされたんですか?」


 俺が尋ねると、タイチさんは、不思議そうに目を丸くした。


「あれ、知らない? ……そうか、ワクカナさんやウスク君からは、何も聞かされなかったんだな」


 それはきっと、慌ただしく通信が切られたときのことを、言っているのだろう。


「何かあったのは、雰囲気から察せられましたが、具体的にどうこうというのは、一切……」

「ふむ、そうか。……う~ん、そうだな。ワクカナさんたちの懸念もわかるけど、僕には、君らに秘密にしておくことのほうが、無駄な心配を、かけるだけのように思えるから、正直に話しちゃうよ。ただ、僕から聞いたということは、内緒にしてくれ。名前を伏せたところで、どうせバレるだろうから意味ないけど、一応ね」


「わかりました」


「ありがと。それで、さっそく本題なんだが、茘杈ノ邑れいさのさと上閲じょうえつが大怪我を負った。命に別状はないみたいだけど、とてもじゃないが、お役目を果たせるような状態にない。ヨキ君も知ってのとおり、向こうは徒杷あだはと違って、上閲じょうえつが一人しかいないだろ? それで今は、急遽、ワクカナさんが茘杈ノ邑れいさのさとに、応援に行ってるという感じだ。この一件で、バケムクロの活動が、活発になってるんじゃないかって、兜割かぶとわりの連中が騒ぎはじめててね。こっちも、色々と対応に追われてる状態なんだよ。ようやく、それも一段落がつきそうだから、さとの問題については、そんなに気にしないでくれ。これが、ちょっとバタバタしてた原因だな」

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