8-3

 俺の発言に、再び龍大りゅうだいが歓声をあげた。恋の話をしたいと語る割に、龍大りゅうだいは、別にだれかとカップルにならずとも、十分幸せそうに見えるのだが、これは俺の気のせいなのだろうか?


「ああ~、幼馴染ね。憧れるシチュエーションだわ。うわ~、なぜに天は、俺に幼馴染の女を、与えなかったのか!」


 なんとも大げさに、頭を抱える龍大りゅうだいを見るにつき、俺は、苦笑いを禁じ得ない。


「恋人が天の計らい……か。ずいぶんと、面白い見方をするんだな。そういった自分のお役目に、関わることなのであれば、永海えみにでも相談して――」


 言いかけ、俺は気がつく。

 そういえば、永海えみは、お役目についての話を、あまりしたくない様子だった。補佐官として、役目を多分に神聖視した、結果なのだろう。その敬虔な姿勢は、俺も学ばなければならない。ここで、みだりに話を広げ、永海えみの心証を悪くするのは、避けたほうがよさそうだ。


 慌てて、俺は、言い直していた。


「すまない、少し違ったな。日本では、だれしもが自由に、聖域に訪れられるんだったな。龍大りゅうだい、お前には、上閲じょうえつ補佐の知り合いがいないのか? そいつと天のご指示について、相談してみればいい。ついでに俺も、軽く話がしたい。紹介してくれると助かる。もちろん、上閲じょうえつならなおのことだ」


 永海えみが、模範的な上閲じょうえつ補佐なのだとすると、理由は不明だが、半人前のうちは、民から秘匿されていることになる。上閲じょうえつのほうが、ある意味では、知り合いに事欠かないはずだ。


「ヨキ……。お前、見た目がイケメンのくせして、意外と天然なんだな」


 龍大りゅうだいが呆れたようにつぶやく。

 その様子に焦り、俺が周囲を見渡せば、大体の生徒が、龍大りゅうだいと似たような反応を取っていた。

 一同全員の、リアクションが薄い。

 そのところから察するに、聖域の公開性に比べると、上閲じょうえつに関する内容には、著しい制限がかけられていると見える。


 俺たちが、神のご意思を、上閲じょうえつからまだ一度も、告げられていないことも踏まえて考えるなら、みんなの親しい振る舞いに反して、正式な仲間としては、全く認められていないのだろう。


 もちろん、俺が気がつけていないだけで、毎朝行われるホームルームが、神のみ言葉・・・を、反映させたものである可能性はある。しかし、その確率はかなり低いものだろう。担任の教師は、あくまでも先生であって、上閲じょうえつではないからだ。


 あるいは、次のように考えみても、いいのかもしれない。すなわち、地球における聖域に向かう頻度は、クシナとは比べものにならないほど、低いのだ――と。


 よくよく考えてもみれば、聖域が公に開放されているのだから、人々が直接、神とやり取りしているようなケースも、考慮しなければならないだろう。解釈に迷ったときにだけ、上閲じょうえつたちから、指針をもらっているのだとしたら、他人の言葉を、待っているだけではいけない。自分から積極的に行動しなければ、いつまで経っても、状況は好転しないままだ。


 だが、どうやっても、俺には、神の声が聞こえない。何度も飽きるほどに、手順を確認してみたが、誤っている部分は、一切見つけられなかった。


 ……いや、考えるのはよそう。師匠たちの判断が下るのを、俺は、この部隊のリーダーとして、どっしりと待ち構えるのだ。

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