8-2

「いるさ。まだ、正式に結ばれてはいないがな」


 マリアのことを念頭に俺が答えれば、一同が興奮して歓声をあげる。


「おお、マジか! どんな子? 写真とかねえの?」

「ない」


 クシナに、そのような魔法はなかったはずだ。シイナに尋ねないと、俺も確証は持てないが、たぶん存在してはいないだろう。


「連絡は? 全然、そんなそぶりがお前にねえけど」


 束の間、俺は、答えに窮す。

 正直なところ、さととの交信に際して、マリアと話せるのではないか、という期待が少なからず、俺にはあった。だが、そんな気配は一向にないし、むしろ、さとの状況は、変な方向にさえ、進んでいってしまっている。俺たちは、クシナのために活動しているはずなのに、今は、さとのことを考えるのが、少しだけ憂鬱だった。お互いの位置が、ちょっと離れたくらいで、これほどまでに、心というものは、突如として通わなくなるのだろうか。


「最近は全くだな……。向こうは、どうにも忙しいみたいだ。それより、俺の話じゃなくて、多伍たくみの番じゃなかったのか?」


 俺は、強引に話題を変えた。そのことについて、異議を唱える者はおらず、龍大りゅうだいは、俺の流れに乗って話をつづけてくれる。いつの間にか、永海えみの足も再び歩きだしていた。まあ、俺の語った内容は、クシナとは無関係のものだったので、彼女にしてみれば、興味の湧かない内容だったのだろう。


「そうだった、忘れるところだったぜ。多伍たくみ、お前はどうなんだよ?」


 今一度、多伍たくみに話が振られる。先ほどは渋っていたのだが、今度は、しゃべる気になったようだった。あるいは、俺が先陣を切ったことが、いい刺激になったのかもしれない。


「俺かぁ。俺なぁ。……後輩なんだけど、北上きたかみさんのことが、少しだけ気になってるんだよね。あくまでも、ほんの少しだぜ? 部活、俺と違うんだけどさ……」


「いいじゃん。告れよ」


 間髪いれずに龍大りゅうだいが応じる。その無鉄砲さに、多伍たくみの表情には、どこか後悔の色が浮かんだのを、俺は見逃さない。


「いやいや。告白つっても、接点がないし……」


 いくら同じ高校に通っていようとも、学年が異なり、放課後も会わないとなれば、接する機会は確かに少ないだろう。多伍たくみの不安はもっともなものだ。


 他人事のように、俺が小さくうなずいていれば、案の定、龍大りゅうだいが再び声を発する。


「よし、わかった。俺たちが手伝ってやる。なっ、ヨキ」

「ん? 俺もか?」

「当たりめえだろ。ダチだろ?」

「まあ……そうか」

「期待してるぜ。唯一の彼女持ち」


 言って、龍大りゅうだいが俺の肩を小突く。その行動で、俺が誘われたことについては、合点がいったものの、あいにくと、龍大りゅうだいの期待には、全然応えられそうにない。


「そういう意味でなら、俺たちは、あまり参考にならんぞ。俺とマリアは、古くからの知り合いだ。ずっと、一緒に過ごして来たからな。思いを告げるもなにも、俺たちにしてみれば、二人でいるのが日常だった」

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