6-2

 俺たちのプランは、なにも馬鹿正直に、現地で魔力の研究を、行おうというものではない。地球には、大量の魔力があるのだ。当然、すでに地球人が、大量の魔力をもとにした研究を、おえているはずだろう。その研究成果を、横から盗みだすというのが、俺たちの――いや、マイたちの作戦だった。


 短期決戦だ。

 現地人との接触はご法度だし、場合によっては、実力に出ることもありうるだろう。そのときには、兜割かぶとわりであるマイに、多大な負担をかけることになるが、致し方ない。


 短い間しか滞在しないとはいえ、宇宙船を発見されるのは、やはりまずいだろう。そんな懸念から、俺たちは、山中に船をおろすことにした。俺たちが選んだのは、かなり森の茂った山岳で、ここならば、地上はおろか、たとえ空からであっても、船を発見することなどできないだろう。


 もちろん、問題もある。

 案の定、聖域のときと同様に、宇宙船は何とも接触せず、おかげで、木々にぶつかることはなかったのだが、外は非常に暗く、どのタイミング船を止めればいいのか、中からでは見当もつかなかったのだ。


「ヨキ、ちょっと来てくれ」


 オオミに呼ばれ、俺は、動力源たる魔鉱石を、置いた場所へと向かう。オオミは、魔鉱石の一つを手に取りながら、俺のほうを見つめていた。


「たまたま気がついたんだが、この数分間だけ、いつもより魔力の減りが少し早い。ひょっとすると、船体は物を通過するときに、大量の魔力を食らうんじゃないか?」


 オオミの発言は、クシナを出発したときのことを、踏まえてのものだろう。たしかに、最初だけ、やたらと魔力の消費が多かった。てっきり、俺は、船を起動するのに、大量の魔力を食らうのだろうと、そう思っていたのだが、オオミの意見も無視はできない。船が聖域を通過する際に、多量の魔力を消費した可能性も、十分にある。


 そんなことを考えていれば、俺の眼前で、いきなり魔鉱石の光が弱くなった。青白い輝きが、見る間に、失われていったのだ。


 間違いない。

 オオミの主張が正解だ。そして今、この船は、地上にめりこもとうとしている。


「シイナ! 船を止めろ!」


 俺は、慌てて叫んでいた。その大声に弾かれるようにして、シイナが操縦をやめる。直後、宇宙船の移動が停止した。浮遊をやめたはずの船体が、そのまま落下しなかったあたり、すでに、地面に入りこんだあとなのだろう。


 勝手に、俺は、宇宙船を完全に止めるためには、魔鉱石を拾わないと、いけないのだとばかり思っていた。俺たちが起動させたとき、船は勝手に浮上をはじめたからだ。だが、どうやら違うようだった。


 不思議そうに立ち尽くす、俺たちに代わって、シイナがその種を明かしてくれる。


「この船は、吸い取った魔力を、自分で使ってるんだけど、動かしたりする部分については、操縦者のほうで、コントロールができるみたいなんだよ。制御してないと、自動で浮上しちゃうのは、仕様みたいだね。あたしは、もう慣れた」


 五か月も船と格闘していれば、そのコツをつかんだとしても、何ら不思議ではない。だが、それは同時に、俺たちが、シイナ一人に対して、大部分の操縦を、押しつけてしまったことを意味した。


「すまない。任せっきりで」


 俺も、全く触れなかったわけではないが、やったと言っても、シイナが寝ているときに、本人に代わって手伝うくらいで、操縦の根本的な部分については、ほとんどノータッチだった。


「いいよ。それに、オオミも結構、交代してくれてたしね」


 そうだったのか。オオミが操縦しているところなど、俺は、あまり目にしていなかった。

 感心するようにオオミの顔を見れば、茶化すように口を開く。


「な~に、地上におりてからのことを、見越してな。マイに比べりゃ、ヨキもあれだが、それでも俺たちは、完全に役立たずだろ。事前に仕事したってだけよ」


 苦笑いで応える俺だが、内心、動揺を隠せなかった。当初の予定は、戦士たる兜割かぶとわりが二名のはずだった。言い換えれば、傷ついたウスクさんの代わりを、俺が果たさないといけないということだ。そんなことが俺にできるのだろうかと、不安を覚えるのも当然だろう。


「日の出を待って、外の様子を見て来る。マイ、行くぞ」


 うなずくマイの背後で、空が白みはじめていた。

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