6 下越市

 その星に降りるにあたって、何よりも俺たちを驚かせたのは、あまりに明るい恒星の存在だった。

 太陽。

 ワルハバとは、比べ物にならない光の量に、これまで冷静さを保っていたマイでさえ、驚きを隠せないでいた。


「これなら、バケムクロを見過ごさないね。安心しなよ」


 マイは、地球に降り立ったあとの、話をしているのだろう。そのお役目が、兜割かぶとわりであることに照らせば、仕方のない発想なのかもしれないが、俺には、頭がぶっ飛んでいるように感じられた。


 これだけの光と暖かさに接しても、マイの思うことは、本当に、ただバケムクロを殺すことに、集約されているのだ。


 感動を分かちあえない。

 地上に出ることのない、オオミやシイナは当然としても、俺でさえ、神にも似た畏怖を、太陽の日差しに感じるというのに、マイには、それが一切起こらないのだ。


 分けてほしいくらいの光量。

 それを目の前にしてなお、己の職務に忠実であるマイに対し、俺は、一抹の寂しさを覚えるとともに、この青い星に、確かな嫉妬心を抱いた。


「羨ましいな……」


 小声でつぶやいた独り言は、だれにも聞かれなかったようだった。明瞭でない声量に、シイナが尋ね返して来るが、俺は、首を横に振って応じると、みんなに向かって言った。


「これだけ明るければ、地上に兜割かぶとわりがいた場合、発見される恐れが高い。着陸は、夜を待ってから行おう」


 俺の提案にみんながうなずく。


「場所はどうする? 結構、大陸が多いみたいだが……」

「そうだな」


 言いながら、俺は、再び地球を見つめた。


「できるだけ、でかい大陸のほうが都合がいい。ただ、俺たちが闖入者である以上、直接、大陸に着陸するのは、避けたいところだな」


 反対意見は挙がらない。俺たちは、見合った場所を、みんなで探していく。


「ねえ、見て。あの巨大な大陸……。その少し右のほうに、小さな島が見えない?」


 シイナの声に、俺たちは、目線を向ける。そこには確かに、「く」の字に折れ曲がった、島嶼とうしょの存在が確認できた。


「ああ……いいね。あそこにしよう。日陰になるのを待ってから、俺たちは、あの島に降り立つ。それまでは、各自、休息を取ってくれ。たぶん、これが最後の、息継ぎになると思う。存分に、英気を養ってほしい」







 俺とシイナは、時間が来るまで、目を閉じて横になっていたが、着陸するときから、覚悟を決めておく必要のあるマイは、どうしても違うようだった。頭披つむりびらきであるオオミ――つまり、バケムクロの研究者であるオオミに、最後の確認を取っていた。


「警戒すべきは、やっぱりハダカ?」

「そうだね。人型のハダカ系は、どんなやつでも強力だと思う。クシナにだって、まだまだ知らない種類が、大勢いるだろうから。逆に、頭披つむりびらきでも十分に調べられた、シカ系とかになって来ると、どんなバケムクロかを特定しやすく、それだけ倒すのも、簡単になるんじゃないかな」


「じゃあ、ウロコはどういう扱い?」

「それなら――」


 交わされる専門的な話をよそに、俺とシイナは、束の間の眠りについた。

 マリア……。

 待っていてくれ。すぐに、調査をおわらせてみせる。

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