2-5

 いつもどおり、二時間ほどかけて、儀式が執り行われる。そのおわりに、大いなる存在の声が、聖域内にこだました。


 絶対的な超越者。

 文字どおり、別格の存在を前にして、思うことは、平伏の二文字だけだ。肌が焼けるほどの高揚感と、背筋が凍るほどの畏怖。神という超次元の存在が、自分を愛してくれている。それを考えるだけで、俺には、どんなバケムクロとも対峙できそうな、そんな桁違いの勇気が湧いて来た。


「普段どおりに過ごせ」


 厳かな、み言葉。

 たった一言が、何時間もかけて発されたかのような、気にさえなる。


「承知いたしました。偉大なるお導きに、さとを代表して、厚く感謝を申しあげます」


 師匠の言葉に合わせ、補佐官の俺たちも、深々と頭をさげていく。これは、意識しての行動ではない。


 自然に体が動くのだ。

 そうして、余韻に似た残響が消えると、すぐさま俺たちは、師匠のもとへと駆け寄った。直後、師匠が疲れ切ったように、体勢を崩す。


 無理もない。

 上閲じょうえつの儀式は、その細部に至るまで、決して間違ってはならない。

 全神経を集中させ、儀式に臨むのだ。生半可な疲労ではないだろう。

 師匠の肩を支えながら、俺たちは、聖域の外に置かれた、一隻の船を目指した。もちろん、それは、移動するためのものなんかじゃない。


 古代文明の遺産――宇宙船。

 どのような目的で、それが作られたのかは、今となっては全くわからない。扱い方も無論だろう。だが、その機能の一部については、俺たちの魔力でも、容易に動かすことができた。


 拠点との通信。

 宇宙船の前方に置かれた椅子へ、師匠を座らせると、俺たち補佐官は、その傍らに控えた。


「ふぅ」


 もうひとふんばりだ。

 そう言わんばかりに、師匠が短く息を吐く。次いで、通信に必要な魔力を、機械に注いでいった。

 ほどなくして、中央の画面に光が灯る。

 その機械には、拠点にいる先生の顔が、写しだされていた。この光景を何度見ても、俺には、不思議に思えて仕方がない。いったい、どんなからくりで、できているのだろう。


「無事におわった。これより戻る」

「みな、首を長くして待ってますよ」


 この場で、神からの言葉を、告げるようなことはしない。そういうしきたり・・・・だからだ。

 だが、俺は、しきたりだからとかじゃなくて、大事なことは、相手の顔をちゃんと見ながら、話さなきゃいけないのだと、強く思う。


 やり取りがおわると、すぐに画面の光が消える。辺りは、一気にまた薄暗くなった。

 隣に立つモタカ先輩の表情でさえ、俺の位置からでは、正確には読めない。どうにも、宇宙船を快く思っていないらしいので、存外、神をより一層身近に感じられる、聖域という場所にいながらも、その気持ちは、決して、晴れやかではないのかもしれない。


 その後、俺たちは、簡単に聖域を清めてから、拠点へと戻った。

 帰り道、何体かのバケムクロに遭遇したのだが、そのことごとくを、モタカ先輩が、一人でやっつけていた。すさまじい戦闘技術だ。モタカ先輩は、きっと否定するだろうが、本職の戦士にも引けを取らないと、俺は思う。

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