8-7

 もちろん、俺がさとにいたならば、マリアだって何の遠慮もせずに、相談してくれたことだろう。

 だが、今はそうじゃない。

 俺は、こうして、遠く離れた地球に来てしまっている。

 それが、俺には、勘弁ならなかったのだ。

 マリアのことは何だって知りたい。

 たとえ、違う星に住まう俺には、何もできないのだとしても、それでもマリアが悩んでいるならば、そのことを一緒に悩みたかったし、共有したかったのだ。


 だから、ハルカに頼んだ。

 儀式に使う小道具を用いて、マリアの異常を知らせるように、俺は図った。

 白と黒の碁石が一つずつ――すなわち、問題なしということだ。

 どうやってハルカと連絡を取るのかは、非常に大きな頭痛の種だったが、こうしてタイチさんが、融通を利かせてくれたことで、その点についても、あまり心配はいらなくなった。師匠が茘杈ノ邑れいさのさとの応援に、向かっている以上、しばらくは、徒杷あだは上閲じょうえつがタイチさん一人になる。先方は不幸にも、大怪我を負ったということなので、他人の災難を喜ぶような形で、いささか感じが悪いが、今後も、定期連絡には、タイチさんが対応するようになるはずだ。おそらくは、恒常的にマリアやハルカとも、接することができるようになる。


 ひととおり、俺たちが近況を報告しおると、最後にマリアは、頼みごとをして来た。


「ねえ、ヨキ。悪いんだけど、少しだけシイナに代われる?」

「ああ。別に構わないよ」


 マリアとシイナは、直接的な姉妹じゃないにせよ、血縁関係にある。久しぶりに会って、話がしたいと思うのは、当然の感覚だろう。


 俺は、マリアの心情を汲んで、すぐにシイナと場所を代わる。

 いくら、マリアのすべてを知りたいといっても、うら若き乙女たちの会話を、盗み聞きするような趣味までは、さすがに俺も持ちあわせてはいない。


 俺は、ゆっくりとその場を離れていた。そのために、マリアとシイナが、どのような話題に花を咲かせたのかを、俺は、全く知らない。


「ヨキに異常はないかしら? まさか、ほかの女と仲良くしてないよね?」

「はい。少し警戒が必要ですが、ヨキさんのほうに、それらしいそぶりは見られません」

「ありがと。引き続き、監視をよろしくね」


 立ち去る途中、俺は、小さな声を耳にした気がした。

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星々をまたぐ嫉妬 ~痴話げんかは、神さえ食わない~ 御咲花 すゆ花 @suyuka_misahana

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