3-2

 師匠の言葉に、はっとする。

 俺たち補佐官は、全員が全く同じタイミングで、顔をあげていた。

 もしも、今の俺たちが、師匠と同じ立場にいたとしたら、はたして、とっさに感謝を述べられただろうか。ちらりと、横を盗み見てみれば、モタカ先輩も、俺と似た感想を抱いたのだろう。悔しそうに歯噛みしていた。


 これは、上閲じょうえつとして、さとの住民を率いる者は、師匠をおいてほかにはいないのだと、強く感じさせる出来事だった。


 動揺を隠せぬまま、俺たちは、師匠を宇宙船へと連れていく。

 そのかん、師匠は何も言葉を発さなかったが、俺は、ついに我慢できなくなり、拠点との通信中に、後ろから声をかけてしまっていた。


「師匠。一刻も早く、神のお言葉を、さとに伝えなければならないのでは、ありませんか?」

「……黙れ。ここではどのようなことであっても、さとには伝えぬ。そういうしきたりだ。ヨキよ……儀式とは、それほどまでに重いのだ。上閲じょうえつを志すお前ならば、わかってしかるべきだな?」


「しかし!」


 言いかけた言葉は、それと同時に、俺の肩が力強くつかまれたことで、中断された。

 モタカ先輩だった。

 痛みに釣られるように、モタカ先輩の顔を見やれば、目を閉じたまま、首をゆっくりと横に振っている。


「人にゃ、顔を見て言われにゃならねえことも、たまにはある」


 大事なものほど、相手を見て話さなければならない。それは、俺の信念そのものではないか。


「……」


 俺は、唇を噛みしめ、黙ってモタカ先輩にうなずく。

 それを見て、師匠も安心したのだろう。静かに、拠点との交信をおえていた。

 帰り道、俺は、急くように歩いた。歩速を抑えるよう、頭ではセーブしたつもりでいたが、どうしても、体が言うことを聞いてくれなかったのだ。


 だが、その速さで、みんなとはぐれることがなかったのだから、やはり、師匠も心の中では、さとに急いで伝えなければならないと、そう確信していたのだろう。


「ヨキ。ういの項、見事だったぞ」


 もはや、話すタイミングは今しかないと、そう言いたげに師匠がつぶやく。


「ありがとうございます」


 応えた俺も、条件反射のようなもので、褒められた実感が、全く伴っていなかった。

 さとに戻った俺たちは、努めて平静を装っていた。

 だが、異例なほど早く、さとへと帰って来た俺たちから、何も感じるなというのは、いささか無茶な注文だったのだろう。


 住人たちはみんな、俺たちの緊張が伝播したかのように、固唾を呑んで師匠を凝視している。

 それは、神からの言葉を、師匠が告げるとともに大きくなり、ついには、とても静寂では抑えきれない、喧噪へと変化した。


 師匠が話をしている間、俺はずっと、マリアに安心してほしくて、笑みをたたえていた。だが、俺が思っている以上に、それは、引きつった笑いだったのかもしれない。

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