3-3

「ふざけるな! 宇宙船を使えだと? 冗談じゃない! 聞くところによれば、あれはクシナを離れるための、道具というじゃないか。クシナの地を捨てようとした、古代人の道具など、断じて使ってなるものか!」


 一つの叫び。

 それが引き金になって、辺りで、一斉に言い争いがはじまってしまう。中でも、俺たちの正面、そこに立つ大人二人の口げんかが、最も過激だった。


「お前! 神のご意思に逆らうのか!?」

「全員、今すぐこの地を離れろ、というご命令であれば、俺も従おう! しかし、そうではないはずだ。教えてくれ、上閲じょうえつ。どうなんだ!?」


 にわかに、師匠が俺の肩を小突く。代わりに答えてみろ、ということらしい。

 大人同士のけんか。

 まだ半人前の俺に、その仲裁を委ねることに対して、俺は、やや疑問を感じたが、それでも指示に従って口を開く。精一杯、自分の中で主張を固めた。


上閲じょうえつ補佐のヨキです」

「ああ。補佐官でも構わねえ。教えてくれ。我らが神は、本当に、俺たちにこの地を捨てろと、そう仰ったのか? 俺たちは、神に見捨てられたのか!?」


 アチオさんの言葉に、泣き出してしまう子が現れはじめた。当然だろう。神から捨てられるという恐怖と、そこから来る絶望感は、言葉にならないものだ。俺も、上閲じょうえつ補佐という立場でなければ、今頃は、子供らの群れに交じって、泣いていたかもしれない。そうしたとしても、別段の不思議はないのだ。


「拠点に戻る最中、俺も宇宙船についての話を、上閲じょうえつである師匠から聞きました。ですが、とてもこれは、クシナの住人全員を、乗せられるような代物じゃありません。魔力の残量が、目に見えて少なくなったという、俺たちの実情に合わせて考えるなら、神からのご指示は、少人数で調査せよと、そういう意味になるでしょう。これが上閲じょうえつとしての総意です」


 納得したと言わんばかりに、アチオさんたちの表情が、次第にやわらいでいく。

 よかった……。俺の解釈は、誤りじゃなかったようだ。

 師匠も、よくやったと褒めるように、俺の肩に手を置いてくれた。だが、今にして思えば、これは師匠なりの、俺に対するテストだったのだろう。


 一歩、目立つように前へと出た師匠が、よく響く声で、さとの住人全員に語りかけていく。


「行き先は未知の星になる。ウスク……戦士としての意見が聞きたい。お前の考えを話してくれ」


 俺を含めた全員が、一斉に一人の大人に注目する。それらの視線を受けてなお、一切動じることなく、ウスクさんは、自分の考えを正確に述べていた。


「はい。これは、かなりの長旅になるかと思います。ですので、食料に詳しい粮播かてまきが一人。また、その星にて、委細のわからぬバケムクロと、対峙しなければならないことを思えば、少なくとも、戦士たる兜割かぶとわりは二人。同じ理由から、バケムクロの研究者が一人。それと、違う神になるとのことですが、現地でも、やはり声を聞く必要があります。上閲じょうえつは必須でしょう」


「さすがだ。だが、さと上閲じょうえつが一人になるのは、俺としても避けたい。同行するのは、補佐官までだろう」


「わかりました」

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