3-4

 順調に話が進んでいく中、また別のだれかが声をあげた。その内容に、師匠とウスクさんが、一瞬、目をつむる。この場では触れてほしくなかったと、そう言いたげな表情だった。


「ちょっと――ちょと待ってくれ! バケムクロとの戦闘を、考えなきゃいけないんだろ? 怪我をしたら、どうするつもりだ? 医者は? まさか、このさとに一人しかいない石勠いしあわせを、クシナから連れてく気か!? そんなことをすれば、さとはたちまち崩壊するぞ!」


「だかろと言って、見習のマリアに、こんなお役目を任せられるのか!? そんなことで、神のご意思が務まると、本気で思ってるのか!?」


「馬鹿やろう! お役目を果たす前に、そいつらの帰って来る場所が、なくなっちまうぞ!?」


 師匠もウスクさんも、何も言わない。もはやこうなっては、だれも止められないと、わかっていたのだろう。それがわかっていたからこそ、ウスクさんは、石勠いしあわせについて、あえて意見を述べなかったし、師匠も同じ考えだったからこそ、意図を汲んでくれると思って、指名したはずだ。


 俺は、何もできなかった。

 自分の無力さを痛感しながら、目の前でくり広げられる言い争いを、ただ茫然と眺めるしかなかった。


 そんなとき、一人の人物が声をあげる。

 先生だった。


上閲じょうえつ……。自分に考えがあります。よろしいでしょうか?」

「言ってみろ」

「はい。このさとに、応援を呼んではいかかでしょう? たしか、私らの聖域は、茘杈ノ邑れいさのさとも使っていたはずでは、ありませんか?」


 それでも、反対の声は止まらない。


「よそのさとに、頼むってゆうんですかい? お役目をいただいたのは、俺たちでしょう?」


 これだ。

 俺は、先生の意見に乗っかることが、この場を収める唯一の方法だと、直感した。

 ゆえに、出しゃばったかもしれないが、俺は、口を開いていた。


「聖域は、俺たちが独占してるものじゃありません。それともあなたは、神聖な場所を、俺たちだけで占有しろと、言いたいのですか?」


「うっ、補佐官……。いや、なにも俺は、そんなつもりじゃ……」


 見計らったような、師匠の咳ばらい。

 この場に、不自然な沈黙が作りだされる。


「なるほど……。ヨキや先生の指摘するとおり、聖域をともにする茘杈ノ邑れいさのさとにも、俺たちと同じお役目が与えられると、そのように考えるべきだ。不足する人手については、茘杈ノ邑れいさのさとに依頼するとしよう。だが、それでも、上閲じょうえつだけは、向こうにも一人しかいない。石勠いしあわせは、茘杈ノ邑れいさのさとに頼むとしても、連れてく儀式の担い手は、やはり上閲じょうえつ補佐とする。……ウスク。今よりお前を長とし、日亜知ひあち隊を組む。クシナを旅立つ人員をそろえろ」


「わかりました。……しかし、茘杈ノ邑れいさのさとには、兜割かぶとわりがほとんどいません。地上にしろ、地下にしろ、先方から我々のさとに来ることは、まずないでしょう。こちらから、迎えに行く必要があると考えますが、私たちも、とっさに出せる戦力には、限りがあります」


「ふむ。何が言いたい?」


 みんなの気持ちを代弁するように、師匠が尋ねる。だが、この二人であれば、きっと手に取るように、お互いの主張がわかったことだろう。


「はい。茘杈ノ邑れいさのさとから、石勠いしあわせを迎えに行くにあたって、戦闘の行える補佐官を、お借りしたいのです」

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