6-4

「そうか……なるほどな。ここの人間たちは、定住できるほどの環境に、いるってことか。そうだとすると、現れるバケムクロを、随時撃退できるほど、兜割かぶとわりが充実してることになるな。見つかったら、やばい。気を引き締めていこう。宇宙船の周囲に、バケムクロを見かけなかったのも、きっと同じ理由からだろう」


 しかし、マイは、俺の考えには懐疑的だった。


「どうだろう……。ねえ、隊長。この星は、あたいたちが思ってた以上に、バケムクロが少ないのかもよ」


「……」


 そんな見方は、俺にはなかった。だが、その後、二人でどれだけ探してみても、一匹たりとも、バケムクロを見つけることはできなかった。マイの言うとおりだったのだ。いくら人数が多いからと言っても、これだけの範囲を、兜割かぶとわりが殲滅しきっているとは、到底思えない。マイの指摘が正しいのだろう。地球には、バケムクロが極端に少ないのだ。さすがは、将来を嘱望された兜割かぶとわり。的確な分析だと、俺は、感心しっぱなしだった。


 それと同時に、俺も補佐官として――いや、臨時とはいえ、この部隊のリーダーとして、思うことがあった。そのことをみんなと共有するべく、俺たちは、一度、宇宙船に戻っていた。


「おかえり。どうだった?」

「バケムクロ、いないかも」


 シイナたちは、驚いて俺のほうを見つめる。言葉足らずなマイに代わって、俺は、二人に対して、簡単な説明を行った。


「いないというのは大げさだが、どうにも、少なそうだという考え方のほうが、今は納得しやすい状況にある。引き続き、警戒は怠れないが、当初よりは危険が少ないと、そう思っても大丈夫そうだ」


「それに、たぶん兜割かぶとわりも少ない」


 マイにうなずき、俺が言葉をつなげる。


「その可能性が高いだろうな。多くのバケムクロが生息してないのに、兜割かぶとわりだけがたくさんいるとは、ちょっと考えにくい」


「おかげで、作戦が実行しやすくなった」


 マイが核心に触れる。俺がみんなと共有したかったのは、まさにそのことだったのだ。言葉を選んだために、自然と、俺の口ぶりは重たくなっていた。


「それなんだが……。まずいことになったかもしれない。さっき、俺が探してたのは、実は、バケムクロだけじゃないんだ。この星の魔鉱石についても、調べようと思って探索してた。……だが、街中の様子を、見に行ったときに気がついたんだが、どれだけ探してみても、魔鉱石を発見できない。どうにも俺には、この星の人々が、魔力を使ってないように思えるんだ。この星には大量の緑がある。初めは、豊富な食料のために、粮播かてまきがいないのかとも思ったんだが、やはり違う。普通に考えて、ありえないだろ? 魔鉱石を、一個も目にしないなんて」


 あいづちを打つように、オオミが俺にうなずく。


「……はあ、なるほどな。だから、この星は、大量に魔力を持ってたのか。たしかに、魔力を使ってないなら、そのぶんだけ着実に溜まってくわな」


「おそらくは……だがな。ただ、同時に、予定してた作戦が使えなくなった。魔力をどうやって調査すべきか、あてがない。見てのとおり、尋常じゃない魔力量のために、手持ちの秘紅花トロイカイヤは、すべて咲いてしまってる。星を探したときのように、また、一から種を植えてたんじゃ、時間がかかってしょうがないだろ」


 作戦の話を、オオミたちには知らせていない。奪うなんていう方法は、わざわざ伝えなくてもいいことだろう。


 俺が話題をずらそうとしたとき、それを予期したかのように、シイナが口を挟んでいた。

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