6-5

「作戦って何? あたし、知らないんだけど……。オオミ、知ってる?」

「いや、俺も知らねえ。なんか、ヨキが言いにくそうだったから、聞かなかっただけだ」


 俺は言いよどんだ。

 だが、実行者としての性格を、多分に帯びていたマイが、間髪いれずに口を開く。


「強奪。この星に調査結果があれば、それを奪うのがあたいの役目」


 それは、お役目を速やかに実行するための、非常措置だった。

 だが、いくら仕方ないとはいえ、真っ当な手段じゃないことは、だれだって理解している。できれば、シイナたちには知らせたくなかった。


 うつむく俺から視線をずらし、シイナがマイのほうを見やる。


「できるの?」


 実力を疑う台詞に、マイは、過剰な反応を示していた。


「姉さんたちと比較するつもり? あんたから先に殺すよ」

「別に、そんなつもりじゃ……」


 二人の間に割って入って、俺は、互いを制止する。溜め息をつきたい気分だった。


「やめろ」


 曲がりなりにも、俺は、上閲じょうえつを志す者だ。俺としては、たとえ地球人の調査結果が、ここに存在していたとしても、この星の神に対して、あいさつもできていない状態で、強奪を実行に移す気など、さらさらなかった。まずは、神の声を聞く。それが最優先だろう。そうでなくとも、宇宙船にいる間、俺たちは、儀式を執り行えていないのだ。みんな、あえて口には出さないが、すでに相当な不安を、抱えこんでいるはずだ。ここのところ、みんながピリついていたのも、その影響が大きい。


 俺の心労を察してか、オオミが口を開く。


「上の判断をあおごうぜ、ヨキ。さすがに、向こうの魔鉱石も復活してるだろ」

「ああ……そうだな」


 どれだけ、俺たちの魔力が潤沢であろうと、クシナはそうではない。通信は、その距離に応じて、発信側だけでなく、受信する側にも、魔力の消費を強いることがわかっている。そのため、拠点との通信は、なるべく控えたかったのだが、こうなっては仕方がない。


 みんなに休息を取ってもらう間、俺は、実に五か月ぶりとなる、さととの交信をはじめた。それに応えたのは俺の師匠、ワクカナさんだった。


「久しいな、ヨキ」


 師匠の表情に変わりは見られない。元気そうだ。


「お久しぶりです、師匠。……あれ、後ろが何か騒がしいですが、どうかしましたか?」


 一瞬、師匠は背後に目線を向けたが、すぐに首を横に振って、何でもないと言いたげな顔をした。


「ああ……少しな。こちらのことは気にするな。それより、どうした? お役目に、進展があったと見えるが……」


「はい。俺たち日亜知ひあち隊は、魔力を豊富に持つと思われる星に、無事に到着しました。ですが、どうにもこの星は、文明の発展に、あまり魔力を用いてないようでして……。現地で先人たちが研究した成果を、強引に盗みだすという、当初考えていた作戦が、取れそうにはありません。この地を捨て、別の星に立つという案も、ないわけではありませんが、これまでの旅を考えると、これほど多量の魔力を持つところに、再び出会うのは、現実的じゃないように思えます。それで、これから先、俺たちは、どうしたらよいのかと、忠言を伺いたくて連絡しました」


「なるほどな……。旅の道中で、定期的に連絡をして来なかったのは、クシナの魔力を思ってのことか」


 さすがは師匠。何でもお見通しだ。


「はい、そのとおりです」


「たしかに、この通信は、距離が長くなるほど、お互いの魔力を食らう。それに、ヨキの話を聞く限りでは、そっちには、十分な魔力があるみたいだな。ヨキが懸念してるとおり、さとの魔力はあまりないが、そうかと言っても、お前たちの任務は、クシナを代表する非常に重要なものだ。これからは、遠慮することはない。定期的に連絡を取っていこう」

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