6-6

「了解です」


「話を戻そう。今後、お前たちがどうするのかを、俺なりに考えてみたのだが……。方針を、現地の人間と親しくなる、という具合に変えよう。強奪の作戦は、いったん白紙に戻す。まずは、その星のことを学ぶことが優先だ。文明に魔力を使ってないなどどは、さすがに俺たちにとっても、完全な想定外だった。クシナとでは、社会の根本的な仕組みが、大きく乖離してるようだ。現地を十分に知るのが望ましい。お役目の期間は、多少長くなってしまうだろうが、焦らずにやってくれ。くれぐれも、これが神からのご指示であることを、忘れてくれるな」


 最後の発言は、マリアを念頭に置いてのものだろう。

 釘を刺された俺は、神妙にうなずくしかない。


「承知しました。あの……すみません。最後に、ウスク隊長は、ご無事ですか?」


 あれから、だいぶ時間が経ってしまったが、俺にとっては忘れられない出来事だ。たぶん、俺だけじゃない。日亜知ひあち隊の全員が、宇宙船に乗りこんだときのことを、今でも鮮明に覚えている。


「ん? ああ、聖域でのことか。……もう随分、前の話になるな。案ずるな、元気でやってる」


 師匠は微笑を浮かべてうなずくが、すぐに後方から声がかかった。


「お話し中、すみません。上閲じょうえつ……やはり――」


 その言葉を最後に、通信は一方的に切られた。

 いかにも訳ありといった感じの様子に、俺は、眉がひそむのを止められなかった。せめてもの救いは、そのドタバタを耳にしたのが、俺だけだったという点だろうか。こんなの、みんなにいらぬ心配をかけるだけだ。とても教えられるようなものじゃない。


 俺は、大きな溜め息をついてから、椅子を離れた。







 強奪ではなく、潜入。

 師匠からのアドバイスを、俺が三人に話すと、すぐに、シイナが魔法を使いはじめていた。魔鉱石の消耗具合から、かなり強力な、魔法を発動させたのだとわかる。


「う~ん……。軽く探ってみたけど、やっぱり魔力について知ってる人は、少ないみたいだね。それから、ヨキの言うとおり、魔鉱石は使われてないっぽい」


「今のは探索の魔法か?」

「うん……」


 そんな便利なものがあったなんて、知らなかった。日常の魔法に詳しいと、自分で言うだけのことはある。あるいは、儀式ばかりにかまけていたせいで、俺がものを知らないだけなのだろうか。


「よし。それじゃあ今後も――」


 その魔法を使おうと、そう言いかけたとき、マイが鋭い口調で、俺の言葉を遮っていた。


「やめろ。今のは、黄昏の泉オーリエ フルトだろ? そいつは、体と心に負担をかけすぎる。バケムクロの捜索に、用いられることがあるが、あたいたち兜割かぶとわりでも、その魔法はめったに使わない。それも、こんな見知らぬ土地で使えば、なおさらだ。今だって、頭がパンクしそうになってるだろ。……隊長、二度とこいつに使わせるな。黄昏の泉オーリエ フルトが必要なら、あたいが代わりに使う」


 言われて、シイナのほうに目線を向ければ、たしかに、ごまかしてはいるが、表情に疲労が見える。最初から止めるべきだったと、俺は、内心で舌打ちをしていた。


「いや……そういうことなら、もうだれにも使わせない。俺たちの方法は、あくまでも地道な潜入調査にある。……みんな、この世界に溶け込むぞ」


 俺の発言から、何をしようと考えているのか、オオミにはわかったのだろう。驚いたように声をあげていた。


「まさか、ヨキ。諧謔の掟アリューヤ シフィアを使う気か?」


「ああ、そうだ。諧謔の掟アリューヤ シフィアは、尋常じゃない量の魔力を使うから、クシナじゃ使われないものだが、この世界なら、何も問題ないだろう。俺たちから違和感をなくす。注意点として、バケムクロ相手には、魔法の効果が出ないが、それも、この星の現状に照らせば、大きな問題にはならないだろう。大丈夫なはずだ。シイナの復活を待ってから、すぐにはじめるぞ。俺たちは、この星の人間になる!」

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