7-5

 俺たちが地球に降り立ってから、かなりの時間が経っている。やはり、あいさつに来るのが、遅すぎたのだろうか。


 落胆の色は隠せなかったが、俺も、たったの一度で、自分たちを認めてもらおうなどとは、思っていない。何度も誠心誠意やってこそ、初めて、この地の神も、クシナの民を受け入れてくださるだろう。


 道具を片づけた俺は、新たに手にした拠点へと戻っていた。

 すでに帰っていたオオミとシイナが、俺を快く迎え入れる。何も告げずに学校を離れたところから、俺が何をしていたのかは、薄々想像できていたようで、帰宅するやいなや、シイナに結果を尋ねられた。


「どうだった?」

「いや、何も……」

「何も?」


 そんなことが起こりうるのかと、シイナは、不審げに重ねて俺に聞くが、補佐官という立場から考えてみても、答えられる内容は、完全に皆無だった。


「ああ。正直、俺も少しは困惑してる」


 それを聞いたオオミが、頭を抱えるようにつぶやく。


「ここに、神はいないんじゃないのか?」


 日本に限った話なのかは不明だが、聖域を、一般にも広く公開している、という異常性から、オオミは、そのように想像したのかもしれない。頭披つむりびらきのくせして、上閲じょうえつに並々ならぬ関心を、抱いているように見えるので、オオミも、独自に嗅ぎまわっていたのだろう。いや、嗅ぎまわるという言い方は、さすがに棘があるだろうか。調査をしていたという表現に直そう。


「聖域のことは、俺に任せてくれないか」


 冷静さを貫いたつもりだったが、俺の声音は、いくらかの怒気が帯びていた。オオミも、俺の返答に眉を寄せていたが、これ以上の亀裂は、避けたかったのだろう。何も言わなかった。


 沈黙をごまかしたくて、俺は、言葉をつなげる。


「神のご意思については、俺が儀式に失敗した可能性を、否定できない。すまないが、もう少しばかり時間をくれ。それに……こうして、地球に留まることを、許されているだけでも、俺たちは、神に感謝しなければならないだろう」


「まあ……そうだな」


 オオミが応え、シイナとマイがうなずく。

 みんなにはそう言ったが、俺は、自分の儀式が失敗したとは、全く思っていなかった。もちろん、上閲じょうえつの儀式を最初から最後まで、通してやったことは、俺は、一度としてない。だが、そうであるがこそ、先ほど俺は、細心の注意を払い、長い時間をかけ、厳格に儀式を執り行った。


 作法の場所が、聖域の中心から、多少外れていたとしても、そこに儀式的な意味合いは、なかったはずだ。しかし、今はそれが原因だと思うことで、自分を慰めたい気分だった。


 もう少し丁寧に、もっと慎重に。

 だが、次こそはという気持ちで、それから一週間にわたって、試行錯誤をつづけてみても、結果は何一つ現れなかった。

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