2-2

 この時間は、とても心地いい。

 マリアと離れているときは、寂しくてたまらないが、今は、もうすぐ会えるという喜びのほうが、強くなって来ている。膨らむ期待が、やわらかな幸福となって、浜に打ちつけるさざ波のように、少しずつ俺に押し寄せては、待ちきれない焦燥感とともに、漸減していく。ひときわ大きい、弾けんばかりのうれしさが来るのは、やっぱり、この目でマリアを見つけたときだった。


 にわかに、俺たちの視線が交差する。――と、マリアの瞳が、大きく見開かれた。

 まだ、朝は早い。

 マリアも、昨晩に話していたように、俺を迎えに行くために、早起きしていたのだろう。決して勝負事ではないが、胸のうちでは、趣の異なる優越感を覚えていた。


「負けちゃった」


 その一言に、猛烈な愛おしさがこみあげて来る。嗚呼……やっぱり、俺とマリアは、似たもの同士だ。同じ価値観を持ち、似たような考え方のできる、よきパートナー。そこにははっきりと、運命さえも感じ取れる。これは決して、大げさな表現だとは思わない。


「おはよう。ずいぶん、早起きなのね」

「マリアだって、同じじゃないか。……本音を言うと、久しぶりの実地に、少し緊張してる。中々、寝つけなかったのもあるが、だからこそ、マリアに早く会いたかった」


「わたしもよ。早く今日の仕事をおえて、あなたのお世話がしたい」

「おいおい、昨日もそう言って、結局俺が、尽くされてばかりだったじゃないか。今日は、俺の番だ。俺に、マリアの世話をさせてくれ」


 束の間、不服そうにマリアが顔を歪める。だが、この点だけは譲れない。疲れたマリアの、体と心を解きほぐしていく。その瞬間が、何よりも自分の存在意義を、感じられるのだ。


 満たされていく。

 俺の心が、マリアという一人の女性で、埋めつくされるような、すべてを超越した幸福感が、そこにはあった。


 手をつなぎながら、食堂へと向かう。ゆっくりと、マリアをエスコートするように、慎重に歩を進める。

 少ない朝食。

 食料の生産を思えば、これも致し方のないものだろう。

 だからこそ、本当は、自分のぶんさえも、すべてマリアにあげたかったのだが、彼女が頑なに拒んだので、それはやめざるをえなかった。


 自分の朝食を食べながら、マリアに口を開けてもらって、彼女のぶんの食事を、そこへと運んでいく。かいがいしい、身の回りの世話への没頭。


 やはり、この時間が一番だ。

 神を除けば、このために自分は生きているのだと、そう強く実感できる。

 充実の一言。

 だが、やがて、聖域へと出発する時間になった。名残惜しいが、マリアにも、俺以上に立派なお役目がある。仕事に向かうマリアのことを、見送れないのは、非常に心苦しいが、俺も自分の務めを果たそう。

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