5-2

 宇宙船は、すり抜けている。

 はたして、ウスク隊長たちは、このことを知っていて、俺たちを送りだしたのだろうか。もはや、俺たちに、それを確認する術はなかった。俺たちが、ようやく事実と向きあう気になったとき、すでに宇宙船は、地上にまで貫通していたからだ。


「古代の文明って、こんなにすごかったのね……」


 台詞こそ褒めてはいたが、シイナの口調は、多分の呆れを伴っていた。口数の少ないマイはもとより、俺が黙ってしまえば、もはやシイナに応じる者は、オオミ一人しか残されていない。


「それだけすげえ文明を、古代人が持ってたにもかかわらず、なぜか滅んだっていう事実のほうが、俺たちにとっては、重要なんじゃないか? たぶん、ろくな理由じゃねえだろ」


「……。言ってみただけ」


 シイナは、オオミの対応に、ちょっと怒ったような、あるいはふてくされたように言い返す。それから少し、みんなが口を開けなくなったのは、悪くなった空気のためではなくて、疲れが、どっと押し寄せて来たためだった。


 そんな期待に応えるように、俺は、面々に告げる。


「しばらく、休憩にしよう。あとのことは、それからでも大丈夫だ」







 八時間もすれば、クシナの全貌が見渡せるほど、俺たちは、上昇を遂げていた。改めて、古代人が持っていた技術の高さには、感心してしまう。


徒杷ノ邑あだはのさとってどこだろう?」


 自分のさとがどこにあるのか、戯れに探すシイナにつきあって、俺も窓の外を眺めた。濁った空気で、ほとんど何も見えないと言っていい、俺たちの星クシナ。


 おまけに、さとは地下にあるのだから、見つけられるはずもない。それは、シイナ本人だって、わかっていたはずだ。


「たぶん、あの辺じゃないか?」


 俺の指さす動きに合わせ、シイナが目線を変えていく。だが、互いに伝えようとしている場所は、ほとんどわからない。俺の示した位置だって、あっている保証などないのだから、別に構わなかった。


 そこから、さらに三時間が経過すると、俺たちは、クシナを完全に離れていた。真っ茶色の星が、何かを訴えかけるように、俺たちのことを、じっと見返しているように感じられた。だけど、たぶんそれは、懐郷の念によって呼び起こされた、単なる錯覚なのだろう。


 クシナを立ってからのスピードは、恐ろしいほどに速かった。想像を絶する勢いで、宇宙船は直進していたのだ。そのために、俺たちの星は、瞬く間に、豆粒ほどのサイズになった。


 やがて、船での生活にも慣れはじめると、話題は、当然のように、魔力のある星を見つける方法へと、移っていた。


 オオミが俺に尋ねる。


「そろそろ教えてくれよ、ヨキ。いったいどうやって、魔力の有無を判断するつもりだ? 魔鉱石でも使うのか?」


 魔鉱石は、俺たちが魔法を使ううえで、そのエネルギー源として用いるものだ。だが、これは一回ぽっきりの、使い捨てじゃない。放っておけば、いずれは、どこからか魔力を吸収して、再び使えるようになる。


 オオミは、そのことを言っているのだろう。


「いいや、違う。ひょっとしたら、魔鉱石でも、見極められるかもしれないが、それだと、時間がかかりすぎるだろう。一々、魔鉱石が回復したかどうかなんて、確かめてる余裕はないはずだ」


 俺が首を横に振って答えれば、オオミもすぐさま言葉をつなぐ。


「じゃあ、どうやって?」

「これを使う」


 言いながら、俺は、大きなリュックサックから、一つの袋を取り出していた。決して、焦らすつもりなどなかったのだが、厳重に包装された袋を開けるのには、結果的に、かなりの時間を要した。


 やがて、中から一つの苗と、そこに植わる花が姿を見せる。

 秘紅花トロイカイヤ

 魔力を感知して咲くという、一風変わった植物だった。

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