5-4

 秘紅花トロイカイヤにおいて、厄介だった点が一つだけある。

 たしかに、作戦どおり、順調に事は運んでいたと言えるだろう。扼能土コーンに覆われた秘紅花トロイカイヤは、手持ちの魔鉱石に、一切の反応を示さなくなったからだ。あとは、予定の星を見つけるだけ。


 しかし、それが難しかった。

 初めのうち、俺たちは、扼能土コーンの量を見誤っていたようで、目的の星に全く遭遇できなかった。そのことが、焦眉の問題として持ちあがったのは、燃料の残量に、オオミが気がついたときだった。


「ヨキ、まずいぜ。残りの魔鉱石が、かなり減ってる」

「本当か? あれだけあったのに……」


 さとから、全体の三分の一にあたる量を、持ち出して来たのだ。そう簡単になくなるとは思えない。

 オオミの言葉に、俺が疑うように魔鉱石を見に行けば、彼が指摘するとおりだった。そこには、鈍い色の光を放つ、魔鉱石の山があるだけだったのだ。魔力の残量があれば、それらは青白い光を帯びているはずだ。


「ヨキ。この宇宙船は、想像以上に、燃費が悪いのかもしれねえぜ?」

「ああ。そのとおりだな」

「どうする?」


 俺は、辺りを見回しながら、対応を考えた。


扼能土コーンの量を減らそう。からの魔鉱石自体には、まだたくさんの予備がある。どこか、魔力を補給できそうな星を、急いで見つけるんだ」


 結論から言えば、かける砂を減らすことで、魔力を持つ星については、簡単に見つけられた。問題は、その先にある。いざ、星に降りる前に、俺たちが、魔鉱石の回復を図っていたところ、シイナが別のことに気がついたのだ。


「ねえ。回復のスピードが遅くない? いくら星から離れてるとはいえ、これじゃ、あたしたちのさとに置いてたほうが、まだマシだと思う」


「たしかに、そうだな。復活までの時間が、かかりすぎてる。これじゃあ、クシナとの決定的な差はないだろう」


 補給のためには仕方がないとはいえ、そういった星に、一々降りてまで、調査するだけの価値があるのかは、かなり疑問だ。クシナでも十分に、目的が果たせるのだとしたら、あえて、俺たちの神は、そのようなご指示をお与えになるだろうか。


 ……。

 もちろん、本当に、それが神のご意思であるならば、俺は、何も考えずに調査するつもりでいたが、きっと、そうではないと信じたい。


 そして、これこそが秘紅花トロイカイヤの欠点だった。

 補給に必要な星を探すため、かける扼能土コーンの量を減らせば、どれが本命なのかがわからなくなり、一方で、逆のことをすれば、今度は、燃料を集めるのに、難儀するようになる。


 適切な塩梅での調整。

 一見すると、簡単そうに見えるが、これは、驚くほどにシビアだ。基準の違う二つの条件を、一遍に満たすことなど、とてもではないが、できそうに思えなかった。


 度重なる失敗。

 スペアの種を渡されたのも、これを見越してのことだったのかと、半ばあきらめかけたとき、俺たちは、その行動が、本質的に誤っていたのを理解した。


 秘紅花トロイカイヤは、いくつも同時に使っていいのだ。

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