ばしゃら祈縁(きえん)

「雷獣にも何にも、お前はやらない。僕とともに生きよう」
呼んで、触れて、瞳に映して。そして笑って──僕の最愛。願いは、それだけ。

　龍神伝説の残る孤島で、贄のよすがはある日、雷の子どもを拾う。
　互いに欠けた記憶ばかりのよすがと子どもは、限られた時間の中で不器用ながらも交流を深めていく。
　
　古墨(こぼく)の獣に襲われた仮初めの夜。名前を思い出した朝。木苺をともに食んで、互いの名前を呼び合って、涙を舐めて、手を繋ぐ。
　ふたりは、長く続く生け贄の儀式を断ち切り、ともに生きる未来を目指す約束を交わす。

　島に眠る龍神。よすがに懐く双子の兄妹。とある夫婦の祈り。村長の思い、島人の願い。
　様々なひとの思いが、縁が、結ばれこじれ絡み合う中で、雷の子どもとおんなし顔をした御使いは静かに笑う。
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