ガチムチ巨娘とムチムチ小娘 ⑸
「黙ってな、兄ちゃん」
ドスの効いた声だった。だが、想像していたよりも、遥かに高い。
それに……
(……なんか……さっきから両肩に、硬いけど柔らかい、不思議な感触がする……)
その感触には覚えがあった。最近、俺の背中が慣れつつある感触だ。
……まさか。
こちらが声を上げないと見ると、腕の拘束がほのかに緩んだ。
その隙に、恐る恐る振り返る。
俺を捕縛していたのは、俺よりも長身で、想定通り筋骨隆々な、フード付きのマントを深々と被った人物だった。
だが、そのフードから覗いていたのは―――男の強面ではなく、美しい女性の顔だった。
ただ、かなりの美人ではあるものの、真紅の肌色と、その額に生えた二本のツノが無言でこちらを威嚇してきている。
先程から押し当てられていた……というより大きすぎて避けようがなかった胸部は、筋肉半分、脂肪半分といった感じで、革製の固そうな防具で固定していた。そこに収まりきらなかったものが、先程から両肩を圧迫していたようだ。
彼女の想定外の容姿に暫し唖然としていたが、表通りから「賞金首が逃げた」という叫び声が聞こえてきて現実に引き戻される。
その声を皮切りに、人々が口々に賞金首の逃亡を触れ回り始めた。今表通りに出れば、すぐに居場所が割れてしまうだろう。
「安心しな、あいつらに突き出すつもりはないよ」
こちらの不安を察してか、彼女が宥めすかすようにこちらに耳打ちしてきた。その言葉にほっと胸を撫で下ろす。
だが……それなら、彼女は何が目的なのだろうか?
その目的を尋ねようと顔を上げるが、こちらがそれを尋ねるより前に、彼女が質問をしてきた。
「よく知らないけどアンタ、強ぇ魔術師なんだろう?」
「ああ。多分、な……」
「良かった! うっしゃ!!」
曖昧な返答だったが、彼女は獣のような八重歯を見せて笑った。
それからも彼女はこちらに喋る隙を一切与えず、矢継ぎ早にまくし立てる。
「あたし田舎から出てきたばっかで、オマケにヒトじゃねーもんだから、パーティーがぜんぜん組めなくてな……あたしゴリゴリの肉弾戦派なんでね、魔術師の仲間募集してんのよ」
確かに、物理攻撃特化といった感じの見た目だ。遠距離攻撃や傷の回復ができる魔術師がいれば、ちょうどバランスが取れそうではある。
質問するまでもなく、彼女が俺を捕らえた目的が見えてきた。
「つまり……?」
「あたしとパーティー組んでほしい!」
筋骨隆々な女性は拘束を解いてから、「頼む!」と地面に両の拳と膝を下ろし、頭を深々と下げた。この世界に広く浸透しているものなのか、彼女の種族特有のものなのかは定かではないが、どうやら人に物を頼み込むときの作法らしい。
「で、でもオレ……知っての通り賞金首なんだけど……」
「関係ねぇ! とにかく強いヤツが欲しいんだ!」
見た目通りの脳筋思考。あまりの潔さに清々しさすら感じられる。
正直、こちらに拒否権は無い。断ってしまえば、あの冒険者の中に放り出されてしまうだろう。
こちらとしても仲間が増えるのはありがたいし、今この場を切り抜けられるだけでも助かる。
「……分かった。それじゃあ、よろしくお願いします」
「だーっ! 固っ苦しいな! タメ口で良いよタメ口で!!」
その言葉と同時に、バシン!と背中を叩かれる。
彼女にとっては軽い触れ合いのつもりだったのだろうが、俺の体は一瞬宙を浮いた。先日のティタほどの威力は無いが、加減をしてコレなら途轍もない力だ。
……これは頼りになりそうだ……。
「そうだ、キミ、名前は……」
「あたしはオグレスのオーグレディだ。よろしくな!」
恐らく〝オーグレディ〟というのが名前だろう。
その一つ前の聴き慣れない言葉に首を傾げる。
「オグレス…つったら……」
「女のオーガだよ。珍しいかい?」
オーガの女性形がオグレス、というらしい。
(ああ、やっぱり。こっちでも種族名は変わらないんだな…)
緊迫した状況ではあったが、元の世界との共通点を見つけ、ほんの少しの安堵を覚えた。
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