勇者の目覚めは胸の谷間で ⑴
目を覚ますと、俺の体は乳白色の大地に伏していた。
両脇から、熱を宿した柔らかなマシュマロのような何かに優しく包み込まれている。
(人をダメにするクッション…ってこんな感じなのかな? 座ったことも触ったことも無いけど――)
少し息苦しいが、柔らかさもあってそれがまた心地良い。
とはいえ、窒息でもして再び意識を失ってしまっては困る。息ができる体勢を取らなければ。
ベッドの上で寝返りを打つようにして、仰向けになる。
大地はかすかに上下していて、その動きに合わせるとすんなり体を起こすことができた。
乳白色の谷間に支配されていた視界が一転して、美しい青空と、それを縁取る木々の緑で彩られる。
どうやらここは森の中らしい。日が出ているためか鬱蒼とした雰囲気は無く、清々しく爽やかな印象を受ける。
視界が開けると同時に、両脇の何かで塞がれていた耳も通るようになった。
女性の寝息のような風の音と、近くに流れているらしい川のせせらぎが耳朶を打つ。
木漏れ日が暖かくも眩しい。そよぐ木の葉から顔を覗かせた太陽に目を細めると、木々の隙間を縫って運ばれてきた風が、頬を優しく撫でた。
なんと心安らぐ場所なのだろう。
どうかもうしばらくは、このままで………。
「キャ———ッッ!!!!!!」
そう思って目を伏せた直後。地揺れと共に爆弾が炸裂したような甲高い音がした。
女性の悲鳴のようにも聴こえたが…。
驚いた鳥たちが梢から羽ばたくと同時に、何故か俺の体もふわりと宙に浮く。
「ああああなたッ!! い、いつからそこに………ッ!?」
青空が暗転し、瞬間、美少女の顔が視界を支配する。
美少女は相当顔を寄せているのだろう。遠近法のおかげで、その綺麗な顔はとてつもなく巨大になっていた。
(巨人が実際いたらこんな感じなんだろうなぁ……)
そこまで思い至った瞬間。俺は、ようやく完全に覚醒した。
「きょっ———巨人!?」
目の前にいる美少女は、まぎれもない……巨人だった。
どうやら、彼女に首根っこを抓まれて浮かされているらしい。
ということは、先程俺が目を覚ました場所は―――青ざめた顔で下を向いて、間もなく赤面する。
それがまた彼女の逆鱗に触れてしまったらしい。
「どこ見てんですかッ!! 変態———ッ!!!!」
巨大だが女性らしい手が、真横から迫ってくる。
巨人のビンタだ。
とてつもない風圧と共に、俺の体は宙を舞った。
◇
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