はぐれものハーレム、爆誕 ⑸

 この町の建造物はどれも同じような掘っ立て小屋ばかりだったが、看板のおかげでどうにか区別が着けられた。オーグレディたちの誘導があるので、いちいち読まなくても問題はないが。


 最後に、町の一番奥まった場所にある建物に辿り着く。看板にはこうあった。

 冒険者ギルド〝純潔なる大槌〟―――


「……なんだか皮肉めいた名前だな…」

「いやいや、最初から治安が悪かったわけじゃないでしょ~…」


 そうメドワーナと談笑していると、入り口近くにいた冒険者から睨まれた。大手を振って歩くオーグレディをよそに、二人して慌てて逃げるようにギルドへ足を踏み入れる。


 昨日のギルドとは大違いだった。中もやはり閑散としていて、いかにもガラの悪い男連中が談笑している。彼らもまたこちらを品定めするように一瞥して、ほどなくして再び話の輪に戻っていった。ギルドの外の人間よりは肝が据わっているらしい。


 彼らの間を通り抜けて、受付と思しきカウンターに向かう。カウンターは乱雑としていて、書類の山が積み重なっていた。全体的に雑な印象を受ける町だが、ギルドも同様らしい。


「どーもー。依頼でしたらこちらにどぉぞー」


 その隙間から、気だるげな受付嬢が出迎える。


「前来てたオグレスの方っすよね。やっとメンバー増えたんすかぁ」

「ああ。こっちの人間と、あと巨人の女の子が入ってくれたんだ」

「ふうん……」


 意外にも受付嬢は表情が変わらない。巨人の冒険者がそう珍しくないのか、はたまた興味が無いのか、どちらか判別することは叶わなかった。

 その表情を崩さず、受付嬢は応対を続ける。


「パーティー登録しといたら色んな仕事紹介できますけど、どうしますぅ? 人間と巨人が加わったなら、やれることの幅広がると思うんすけどぉ」


 その後、俺の姿を見てから「ちょっと誤魔化しても大丈夫っすよ」と耳打ちしてくる。こちらの事情を汲んでくれているようだ。きっと他の冒険者も同じようにしているのだろう。治安や法令の観点から見るといただけないが、今は助かる。


 今は文字が書けないため、書類はオーグレディに代筆してもらうことにした。

 彼女がすらすらと書面に書き連ねるのを眺め入る。年齢欄を見るに、彼女は二十歳らしい。なお、俺の名前と思しき欄にはそのまま〝リーダー〟と書いていた。これで受け付られるのかと不安しかないが、彼女は自信満々だ。

 最後に例のパーティー名を書いて、受付嬢に紙を返却する。


「はぐれもののハーレム…へんてこな名前っすね」


 受付嬢は首を傾げながら紙面と向かい、「ま、目立ちはするかも?」と言って受理してくれた。その他の項目のほうに問題があると思うのだが、やはりそこには触れないらしい。


 その後、受付嬢は真横の書類の山から一枚の紙を引き抜き「今はこの依頼がありますよ」と言い、こちらに寄越してきた。どうやらここの書類の山は、すべて依頼が記された書類らしい。

 話が早くて助かる―――が、どうも今の動作だと適当に選んだようにしか見えなかった。ざっと目を通してみるが、肝心の依頼内容にも引っかかりを覚える。


「……あの、これ、上級依頼って書かれてるんですがぁ…」

「大丈夫っしょー。さ、行った行ったー」


 受付嬢はこちらの了承を得ず、依頼を受け付けた証明と思われる判を押して、「次の方ー」と言って俺たちの退場を急かしてきた。オーグレディに隠れて気付かなかったが、背後には新しく冒険者が並んでいる。

 再び典型的なならず者といった風貌な冒険者たちに凄まれ、俺たちはその場を後にすることを余儀なくされた。



   ◇

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