はぐれものハーレム、爆誕 ⑷

「先生、大丈夫でした?」


 ティタによってくるまれていたマントから取り出され、「ああ……」と力なく肯定する俺。健康状態に問題はない。筈だ。


 マントから脱出した俺の目の前に現れたのは、ぽつぽつと立ち並ぶあばら家を簡素な木の柵だけで囲った、町と呼ぶにはあまりに粗野な場所だった。

 大きな町のように錯覚したが、建物も人も少なく閑散としているため、広々と見えているだけだろう。

 近辺の緑地も少なく、足元にひび割れた大地が広がっている。いかにも治安が悪そうな地域といった印象を受けた。


「じゃあ、オレは待っとくな。申し訳ないけど手続き頼む」

「いや、この町なら、最悪バレても大丈夫だと思うぞ」

「え?」


 先日の騒動を鑑みて、俺とティタ二人は町の外で待機していようか考えていたが、オーグレディに引き留められてしまった。


 曰く、最悪騒ぎになっても捕まらないだろうとのことだった。

 この町の人間は、多くが脛に傷がある身だという。自分たちも賞金首であれば、まとめて検挙される。最悪、ギルドの悪事が摘発された場合、働き口が無くなる。町の中では大きな騒ぎにはしないだろう。ただし、町を発った後は分からない。


 そういった人族の犯罪者はもちろん、それ以外の事情で他の町から門前払いを食らった種族も多いそうだ。

 昨日の町のような塀も門も無いので、物理的にも巨人族が入っていっても問題はないように思えたが、町へ立ち入ることをティタ自身が拒んだ。

 恐らくはこちらを気遣ってのことだろう。ただ、町中にいる方が目立って、荒事に巻き込まれる可能性も高い。不安は残るが、彼女は町の外で待機してもらうことにした。


 オーグレディのマントを借り、顔をすっかり覆い隠してから、パギダへ踏み入る。

 町の規模の割に外に出ている人間はごくわずかだったが、その全員が不躾にじろじろとこちらを見つめてきた。ある者は好奇の目で、ある者は関わりたくないと言いたげな風で、顔をしかめている。そんな顔をするなら見なければ良いと思うのだが……


「まぁ、オーガにドワーフだからな……気にするなよ、三人とも」

「いや~…多分、おにーさんのほうだと思うよ」

「えっ」


 この町は人族以外が往来するのも珍しくないと言っていたし、確か彼女たちは以前ここで働いていたと聞いている。常連というなら町民たちは見慣れているだろう。言われてよく見てみれば、野次馬たちが見つめているのは俺の姿の方だった。

 大きなマントで顔も体型もすっかり隠した人間だ。得体が知れない。おおかた賞金首だろうと察しているのだろう。


「……あのう…」

「…す、スマンな……ハハ」


 試しに、近くの町民と思しき人達に声を掛けてみるが、案の定みな逃げ出していく。

 気付けば、俺たちの周囲には魔法をかけたように空間ができていた。


(前世のこと、まだあんまり思い出せないけど……なんか過去のトラウマが刺激されてる、気がする……)


 なんだか切なくなりながら、オーグレディの後をとぼとぼと着いていった。

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