はぐれものハーレム、爆誕 ⑶

「おはよ~……」

「おーおー、朝っぱらから揃って何騒いでんだい」


 二人で声のした方を振り向くと、そこには昨日仲間になった二人の女性が立っていた。

 オーガの女戦士・オーグレディと、ドワーフの少女・メドワーナだ。

 地面に直に寝ていたというのに、オーグレディは元気そうだ。メドワーナは小さな手の平で目元をこすっていて、まだ眠り足りないといった様子。


 賞金首ではないようだが、二人も俺やティタと同じくはぐれものらしい。詳しくは聞いていないが、長い付き合いになるのであればゆくゆくは知ることになるだろう。


「おはよう」

「おはようございます」

「おはよーさん。ティタちゃんに……えー…」


 互いに朝の挨拶を交わそうとするも、オーグレディが俺の呼び名で言葉を詰まらせる。名前を忘れたというより、本名で呼んで良いものかとためらっている様子だった。

 それからオーグレディは「賞金首なんじゃおいそれと名前も呼べないから、公の場では〝リーダー〟って呼ばせてもらおうかね」と、俺の新たな呼び名を提案をしてくる。断る理由もないので、二つ返事で了承した。


 何故リーダーなのかと言うと、これも昨晩、俺はこのパーティー―――〝はぐれもののハーレム〟のリーダーになったからである。

 ハーレムであれば男がリーダーだろう、というその場の流れで決定した。


(想像してたのとだいぶ違うけど……ハーレムっちゃあハーレムなんだよな……)


 そこで再び昨晩の夢を思い出し、転生後二日目にも関わらずそれなりに夢が叶いつつあることに気付く。なんて幸運なやつなんだろうか。賞金首に憑依してしまったことを除けば……


 リーダーという役務を担わされたのも正直不運ではあるが、このパーティーの中では適任なのかもしれない。

 今のところ問題は見られないが、種族ゆえに町の往来すら許されないティタ、荒事好きでその気であれば衛兵も吹っ飛ばしそうな勢いのオーグレディ、実年齢は不明だが容姿はどこからどうみても幼児のため、ギルド等で諸々の制限をかけられる恐れがあるメドワーナ。これも俺が賞金首ということを除けば、という話だが……


 了承後、そんなことを考えていると、オーグレディの隣でメドワーナが「うちも、おにーさんって呼ぶね……」とむにゃむにゃと宣言してきた。

 かくして俺はティタからは〝先生〟、オーグレディからは〝リーダー〟、メドワーナからは〝おにーさん〟と、予期せず個別に呼ばれることになった。



「今日はこれからどうするんですか?」


 全員が揃ったところで、早速ティタが本日の予定を尋ねる。

 それに答えたのはオーグレディだった。「そりゃもちろん―――」と含みを持たせながら自分の拳同士を突き合わせると、その片方を手前に突き出し、彼女の目の前に立ち塞がる。


「まずはあたしとティタちゃんで手合いをだな…」

「え!? い、いや、やめましょうよ! 仲間同士で…」

「そか? んじゃしゃーねーか……」


 驚くほどあっさりと諦めるオーグレディ。その頭上ではティタが分かりやすく肩を上下させ、胸を撫で下ろしていた。案外、話は通じるらしい。


「それなら……仕事もらいにギルドに行くか」


 「金もねーだろ」と不憫そうに尋ねられ、「仰る通りです」と肩を落とす。


 オーグレディによると、ここから南にパギダという町があるらしい。

 町全体の治安が悪く、ならず者の溜まり場になっているのだとか。そしてそこのギルドでは、そういった者たちに依頼を斡旋しているそうだ。二人も、少し前までそこで依頼を受注していたらしい。

 かなり高価にはなるが、身分証明になるものを金で買うこともできるという噂もある。もちろん偽造品だ。身分が明かせない賞金首としては早い段階で揃えておきたい一品である。


 リーダーとして彼女のその提案を受け入れ、俺たちは再び町から町への大移動をすることになった。


 朝の支度を整え、荷物をメドワーナ達のリュックに詰め込み、出発の準備が整う。

 忘れていることはないだろうかと思案していると、突然オーグレディが指示を仰いだ。


「そんじゃリーダー、景気付けに出発の号令頼む!」

「え、何それ? 要る!?」


 必要性に疑問を感じ、しばらく当惑していたが、両隣のティタとメドワーナも何故か乗り気になり「せっかくだからやっとこう!」「結成一発目の初仕事だよ~」と煽ってくる。

 リーダーの初仕事とは言いつつ、ほぼ彼女たちからの強制で、俺は促されるまま拳を高く突き上げた。


「んーじゃあ……出発だー!」



 そんなこんなで意気揚々と呼号するが、俺の体はというと―――見つかると即刻捕まるため、ティタのマントにくるまれて荷物として運ばれるという、リーダーとしてはあまりに格好がつかない方法で運搬されることになった。

 オーグレディのマントを被れば良いのではと思ったが、昨晩の騒動を鑑み、念には念を入れて、とのこと。どのみち、またティタに運んでもらうことに変わりはないが。


 その後、密閉されたマント内でものの数分で酸欠になり、寝ているのか失神しているのか分からない状況に陥ったが、おかげで体感時間ではほぼ一瞬の間に町へ到着した。

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