はぐれものハーレム、爆誕 ⑵

 感覚のない体で伸びをしながら、その場を立ち上がる。誰も寝袋を持ち歩いていなかったため、草地に直に寝るという経験を初めてした。現在はしびれの所為か感じることはないが、恐らく全身バキバキに凝っているだろう。

 なお、就寝中は交代で見張りをしていたが、先日のような盗賊や野生生物には襲われなかった。ティタが言った通り、町が近いためある程度治安が良いのかもしれない。


 少し離れた場所にあった川へ歩み寄る。

 水面には空と自分の姿が映っていた。空は澄み切った青色を湛えている。正確な時刻は分からないが、昼前ではあるだろう。

 次に自分の姿に眺めて、それから顔を洗い始める。


 最初に目を覚ましたときは見慣れず戸惑ったが、やっとこれが自分の顔なのだと認識できるようになってきた。…まあ今後、街中を歩く時、否が応でも認識させられることになるだろう。


 俺―――この肉体の男〝クロウ〟は、賞金首である。それも、かなり悪名高い。


(肝心のオレ本人の本名は思い出せないんだけどな……)


 この世界では既にクロウという呼び名があるのだから、困りはしないだろう。いや、公の場で使うと困りそうだが……

 まぁ、そんなことは些細な事だ。昨晩俺は、名前よりも、何よりも肝心なことを思い出したのだから。


(オレはこの異世界で―――ハーレムを作るッッ!!!!)


 昨晩思い出した、馬鹿げた前世での夢……それは、他ではないここ異世界で、創作物に出てくるようなハーレムを築くことだった。


「……何してるんですか、先生?」

「うおっ!!」


 心の中でバカなことを意気込んでいると、大きな影と共にティタの声が降ってきた。

 昨日と同じ全くふざけたことを考えていたとは正直には答え辛い。わかりやすく視線を泳がせてしまうが、ティタは気付いていないようだ。


「えーと、あの……魔法のスキルの確認をだな……」

「あー、スキル! やっぱりあるんですね、魔術師のひとって! スゴイ!」


 適当なことを言って話をはぐらかしたが、結果的にティタを興奮させてしまう。そういえば、巨人族は魔術を使わないんだったか。

 しまいには「見たいです!」と乗り気になってしまい、引くに引けなくなった。


「ええい!」


 出し方が分からないなりに情けない掛け声と共に手をかざしてみると、手の平の下に先日の魔法陣と同じ意匠の矩形が浮かび上がってきた。


(おおっ、ほんとに出た!!)


 枠の中には、クロウが扱える魔術が文章化されて一覧で並べられている。

 一行目から順に追っていくと〝自動詠唱破棄〟〝自動防御〟など自動化を行う魔術が最初にあり、魔術を繰り出す際の手順を簡略化していることが分かる。次にあったのは〝自動翻字および翻訳〟だった。


(そういえば……ティタたちと普通に言葉通じてるし、この文字も何故か読めるな……なんか気持ち悪)


 読めない文字が読める、という体験に少々不気味さを感じつつも、文字列を眺め入る。

 その途中で、ティタが大きな指の爪で器用に指をさしてきた。


「この自動翻字……て何ですか?」


 どうやら二人とも同じ項目で目が留まったらしい。だが、訊かれても答えようがなかった。何せティタが尋ねている相手は、これを作った本人ではないのだから。

 だが、ここで黙るのは不自然だろう。昨日の一件のおかげで信頼されているといえど、俺は賞金首。不審な行動をすれば、やはり危険な人物なのではないかと疑念を持たれるだろう。こんなしょうもないことで信頼を失うのは避けたい。


「あー……えっと、これはなー。種族間で言語が違うだろ? それを勝手に訳してくれるんだよ!」

「なるほど…便利ですね!」


 それらしい嘘がするすると出てくるのは、元々の性格なのか、この肉体の持ち主の癖がうつってきたのか、一体どちらなのだろうか。


 その後もティタからの質問攻めに遭い、適当な嘘で躱していると、背後から声が飛んできた。

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