ガチムチ巨娘とムチムチ小娘 ⑷

「待て―――ッ!!」


 ギルドの狭い入り口から、怒号と冒険者たちが雪崩れ出してきた。

 ティタを置いてきて正解だった。逆に言えば、それ以外の選択は全て不正解―――


(オレのバカヤロ―――ッ!!!!)


 それにしても……あまりに、あまりに迂闊過ぎだ。

 この体の男は賞金首。それも恐らく、かなりの知名度を誇っている。あんな辺鄙な森を根城にしていた盗賊ですら知っていたのだ。大きな町に顔も隠さず出ていけば、そりゃこうなるだろう。慎重に考えれば、いや考えずとも分かった筈だ。

 ティタに甘んじて仮眠を取り、多少脳を回復させるべきだった。それとも、盗賊を追いやったことで気が緩んでいたのだろうか。


「スンマセン! スンマセン!!」


 律儀に頭を下げながら、人集りの隙間を縫って逃げていく。

 程なくして開けた大通りに飛び出た。身動きが取りやすくなったのは良いが、これでは賞金稼ぎ目的の冒険者たちに見つかりやすくなってしまう。

 どこかに身を隠さなければ……


「居たぞ! こっちだ!!」

「ゲェッ!!」


 思っているそばから、追ってきた冒険者がこちらを指差し叫ぶ。

 それを聞き、無関係だった周囲の人々もざわめき始めた。ますます不味い状況だ。


 逃げ場を探し、血眼になって周囲を見渡す。すると、斜め手前に人気の無さそうな路地裏を見つけた。

 今の地点から駆け込むことができる距離だ。だが追っ手はすぐそこまで迫ってきている。隠れても、行き先が分かってしまえば意味は無い。


 そこで、ようやく自身の職業を思い出す。


(そうだ、魔法―――!!)


 魔法を使えば良いのだ。

 ただ、透明化や瞬間移動といった魔法が使えるかは分からないし、運良く発動できたとしても、何が起こるか分からない―――


「スマン!」


 迫りくる追手の方向へ振り返り、謝罪をしながら魔法を繰り出す。


 魔法陣から勢いよく射出されたのは、色付きの煙幕だった。

 その途中で自分でも吸ってしまうが、催眠効果や催涙効果のようなものは無いようで、体に異常は生じなかった。何なら煙たさすら無い。どうやらこの煙幕、目くらまし以外の効果は一切ない無害なものらしい。


「キャアアァァッ!!」

「毒物かもしれん! 退避しろ!!」


 だが、この男の素性を男本人よりも知っている冒険者たちは、過剰な警戒心と恐怖心を抱き、その場をすごすごと退散していく。


「おぉ……スゲェ~」


 先ほど目に入った裏路地へ忍び歩き、その影に身を隠した。

 煙幕は程なくして消えてしまったが、毒と勘繰る冒険者たちはそれ以上近寄ろうとしない。しばらくは無害だと気付かれないだろう。


 一息吐こう―――としたところで、頭上から何かが伸びてきた。


「―――うぉっ!?」


 頑強ながらしなやかな太く長いそれは、とてつもない力で首を固定し、体の自由を奪う。

 それは、筋と血管が浮き出た屈強な腕だった。

 その腕は首を固めつつ、手の平で口を塞ぎ、もう片方の腕で、こちらの二本の腕をまとめて拘束する。


 全身をくねらせて暴れてみるが、腕はびくともしない。

 こちらの抵抗をものともせず、その屈強な人物は、路地裏の建物と建物の間に入り込む。


 まずい。このまま捕まってしまうのか―――

 一瞬、このまま逮捕されてしまう未来が頭を過る。


 だがその思考は、屈強な人物の声によって掻き消された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る