ガチムチ巨娘とムチムチ小娘 ⑶
「では…身分証明書は?」
「無い…ッスね……」
「でしたら…通行証などはお持ちでありませんか?」
「ハイ…いや、イイエ……」
ギルドの受付嬢の端的な受け答えに、俺は首を横に振り続ける。
一つ、学びを得た―――どうやら公的なギルドでは、身分証明が出来なければ依頼を受注することができないらしい。
冷静に考えれば、流れ者にそう易々と仕事を渡せるわけがない。そのままギルドの信用問題に直結するだろう。
(折角の異世界転生なのに……まさかこんなとこで躓くなんて……)
食事はどうしようか…ティタと森の生物でも狩って食うか。宿は…時間帯も考えると、今日はどのみち野宿しかないだろうか。巨人族向けの宿の希少性も考えると、これ以降も野宿が主になるかもしれない。
そういえば、ティタによると冒険者ギルドは町や近隣地域の案内所も兼ねているらしい。近場の町に、巨人族が泊まれる宿が無いかだけでも尋ねると良いかもしれない。
だがその質問は、口から出る前に受付嬢に遮られてしまう。
「……お客様」
「え? ああ、ハイ!」
何かしらの救済措置を期待して、威勢よく返事をする俺。
だが、こちらの期待に反し、受付嬢の表情はどうにも曇っている。
「人違いだったら申し訳ないのですが、あなた、もしかして……」
受付嬢の視線が、あらぬ方向へと動く。
その視線を追うと、受付横にある貼り紙まみれの壁に辿り着いた。
黄ばんだ貼り紙には、この世界の数字と思しき記号の列がずらりと書き連ねられている。桁があまりにも大きく、後半は同じ記号ばかりが並んでいた。飾り線だと勘違いさせるほどだ。
その上には、先程、あの森の水面に映っていた男の似顔絵があった。よく似ている。
……文章を読まずとも分かる。これは、賞金首の掲示だ。
「黒魔術師、クロウ……!!」
受付嬢が声を上げたと同時に、ギルド内の喧騒が静まった。
振り返ると、案の定、その場にいた冒険者たちが一様にこちらを見つめている。
「まさか…あのクロウが……!?」
「なんでこの町に……」
あの盗賊たちと全く同じ表情だった。驚き。焦り。恐怖。逃げだす者まで居る始末だ。やはりこの体の男は、それなりに実力のある賞金首なのだろう。
名前は〝クロウ〟というらしい。予期せず新たな情報を得ることができた。
今は、それどころではないが。
「ハハ……じゃ、オレはこれで……」
幸い、捕まえようとする者はいなかった。
呆気に取られた冒険者たちの隙をつき、俺は受付の椅子からゆっくりと腰を上げ、ギルドから立ち去ろうとする。
だがその直後。冒険者の一人がぽつりと呟いた一言で、状況は一変した。
「でも、この人数なら捕まえられるんじゃ……」
冒険者たちの目の色が、ゆっくりと変わってゆく。
狩人の目だ。
俺はギルドを飛び出した。
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