ガチムチ巨娘とムチムチ小娘 ⑻
町から少し離れたところで、オーグレディの腕の中から身を乗り出し、町を振り向く。
門は開かれていなかった。いや、開門しようとしているらしい様子は見えるのだが、門ががたつくばかりで開く気配がない。どうやら、オーグレディが穴を開けてしまったおかげで、建付けが悪くなってしまったらしい。
意図せず後続の足止めすることに成功した。今のところは、だが。
追手が来るのも時間の問題だろう。恐らく大人数で、徒歩以外の移動手段を用いてやってくるはずだ。早く次の町へ向かうべきだろう。
オーグレディの様子を伺う。成人男性一人を抱えて追手を振り払いながら逃げていたにも関わらず、息すら切れていない。対する俺の体は汗だくで、予期せず体験した逃走劇にすっかり憔悴していた。
力なく指差しをして、彼女をティタがいるであろう雑木林に誘導する。
「おーい! ティター!!」
傍まで近づいて名前を呼ぶと、木々の奥から彼女の囁き声……のつもりの、巨人族以外にとってはそれなりの音量の声が聞こえてきた。
「せ、先生…?」
どうやら町の喧騒を聞きつけ、身を隠していたようだ。
フードを外して顔を見せてやると、彼女は慌てて駆け寄ってきた。
「おおっ、お仲間ってのは巨人族か! 良いねぇ! 嬢ちゃん、今から走れるかい!?」
「は、はい! はい!?」
「このお荷物はあたしが持ってやるから、行くよ!」
「はい! え? 何で?」
「移動しながら説明しまーす!!」
彼女に説明する前に、オーグレディはその場を駆け出した。ティタも小走りで後をついてくる。
「先生、何で逃げてるんですか!? 何で女の子に抱っこされてるんですか!? 誰ですかその子!?」
「オレが賞金首だってバレた! すまーん!!」
風圧に掻き消されそうな中、声を張ってどうにかティタと会話をする。
ティタはその話を聞くや否や、俺本人よりも動転し始めた。
「す、すみません先生……やっぱり引き留めておけば……」
そう言ったティタの目尻には大粒の涙が溜まっていた。瓶一本に詰められそうなくらいだ。
「いや、オレの考えが浅かったんだ。ぜんぜんティタのせいじゃない」
と、オーグレディの胸の中で彼女を諌める俺。なんとも情けない……。
ひとまず、ティタまで捕まらなかったことを喜ぶべきだろう。この巨体が見つけられなかったのは奇跡だ。むしろ町の中へ注目が向いていた分、見つかりにくくなっていたのかもしれない。今回の失態をどうにか成功として捉えるならば。
だがしかし、事態は依然として最悪といって差し支えない。
町から逃げ出したのが判明した手前、町の警備はともかく、賞金目当ての冒険者たちは追ってくるだろう。
次に、ティタの疑問はオーグレディに向いた。
「それであの…こちらの方は……?」
「勝手なことしてすまん! 新しい仲間にした!」
「え!?」
俺の体を抱えていたオーグレディはというと―――何故か目を燦燦と輝かせ、ティタを見上げていた。
そして、またも突拍子もない提案をしてくる。
「お嬢ちゃん! 一発、手合わせしてくれ!」
「えぇ!? わ、私ですか!?」
「あぁ! 巨人族を見るのは初めてだ!! ぜひ!」
「え……せ、先生……私、どうすれば……!?」
「頼むから今は後にしてくれ―――!!」
あぁ。とんでもないやつを仲間に加えてしまったのかもしれない……。
窮地を脱するためとはいえ、やはり軽率だった。いや、あの場ではああするしかなかった。どのみち、俺には決定権はない。今は成り行きに任せるしかないのだ……。
その〝とんでもないやつ〟に体を預け、俺たちは新たな街を目指すのだった。
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