ガチムチ巨娘とムチムチ小娘 ⑺

「ちなみに、そのドワーフってどんな子なんだ?」

「あたしとおんなじでバリバリの武闘派。デッケェ木槌振り回してるよ」

「となると……俺以外、みんな肉弾戦特化だな……」


 ティタの姿が思い浮かぶ。そうだ。早く彼女に会わなければ。

 俺のせいで町周辺も警備が厳しくなっている筈だ。こちらの連れだということは暴かれなくとも、巨人族というだけで何かしらの不利益を被る可能性は否めない。


「いいね、あんたの連れも武闘派か! ……で、その子はどこに居るんだ?」


 そのことを伝えようと口を開くが、こちらから言い出すまでもなく、オーグレディがティタの居場所に言及してきた。


「今は町の外に待機してもらってるよ」

「おぉ。そりゃあ良かった!」

「良かっ、た?」


 想定外の彼女の反応に疑問を抱く。

 だがその疑問が解消する間も無く、オーグレディは高らかに声を上げ、俺の体を片腕で担ぎなおした。体勢は「お姫様抱っこ」から変わっていない。片腕だけでよくこの抱き方を維持できるものだ。

 感心していると、その間にこう一言、彼女は言い放った。


「コソコソせず、正面突破ができる」


 ……嫌な予感がする。


「待て」


 俺が彼女を止める前に、別の何者かの声によって引き留められた。


 声を掛けてきたのは、甲冑を纏った男だった。恐らくこの町か、もしくは国全体の治安維持部隊の者だろう。

 今にも駆け出しそうだったオーグレディだが、意外にも甲冑の男の指示にすんなりと応じ、歩みを止めた。ただ出鼻を挫かれたのが不満だったのか、不服そうにフンと鼻を鳴らしている。


「何か用か?」


 不機嫌そうに言葉を返すオーグレディ。

 甲冑の男はそれに怯む様子もなく、どこからか丸めた紙を取り出し、それを彼女の顔の位置まで高く掲げた。

 ……その紙には、他の誰でもない、俺の顔が描かれていた。


「つい先程、ギルド周辺でこの賞金首が発見されたとの報告があったのでな……そこのお前。フードを取って顔を見せてみろ」


 案の定、顔を見せるよう促される。

 疑われている。それもそうだろう、脳天から足の先まですっかり身を隠したマントの人物なんて怪し過ぎる。


 ……恐らく指示に応じても拒んでも、この後の展開は変わらないだろう。

 意を決し、ためらいながらもフードに手を掛ける―――が、その手はオーグレディに掴まれてしまった。


「……フード取る必要は無いよ」


 オーグレディはそう耳打ちすると―――あろうことか、その場を駆け出した。


「なっ……おい! 待て―――!!」


 その叫び声で異変に気付いたのか、即座に周辺に居た他の甲冑たちが立ち塞がってきた。

 だがオーグレディはそれを物ともせず、片腕一つで払っていく。


 胸と下腹部以外ほぼ全て肌色の無防備な女が、全身を武装した甲冑男や冒険者たちをいとも容易く薙ぎ倒していく。


「ウオアアアァァァァアアァアァ!!!!!!」


 悲痛な叫び声は、どうやら俺の口から出ているらしい。この世界にやってきてから、叫びっぱなしな気がする。

 そして俺はようやく、先程言っていた彼女の言葉の意図を理解する。

 仲間が町の外にいるのであれば、町の警備や冒険者に見つかっても倒して逃げてしまえば問題ない、という意味だったのだろう。


 そのまま大通りを突っ切っていると、程なくして町の門が見えてきた。

 門周辺たちにはまだ連絡が回っていなかったようで、門番たちは突進してくるオーグレディに瞠目している。いや、事前に報告があっても、この状況を冷静に対処するのは難しいだろう。

 それでも門番たちは己の役目を果たすべく、持っていた互いの金属製の長い斧を交差させて、彼女の行く手を阻んだ。

 だが、彼女がその程度の障壁で阻めるはずもなく。


「―――悪いね!」


 門番たちにそれだけ告げると、オーグレディは―――二本の大斧ごと、木製の門に突撃した。

 そのたった一撃で斧の柄はへし折れ、門は彼女と同程度の大きさに裂ける。

 ……記憶は無いが、確信を持って言える。斧ごと木に突っ込むなんて体験は今回が初めてだ。


「あんた、大丈夫か?」

「……こっちのセリフなんだけど……」


 マントで木片や木屑を払いながら、なんとか彼女の声掛けに応える。


 とてつもない強行突破ではあったが、かくして俺たちは町の警備を突破することができたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る