はぐれものハーレム、爆誕 ⑺

 地方南部へ向けて歩いていると、荒れた大地にぽつぽつと緑や木々が目立つようになる。気付けば、周囲はティタの背丈ほどの木々が連なった森になっていた。


 だが幸いなことに、木の全長はあくまで彼女の〝背丈ほど〟だったため、彼女が少し背伸びをすればある程度の現在地が確認できた。土地が山なりになっていたことで、滝壺の位置もすぐに目視できたらしい。

 とはいえここは樹海。目的地が今よりも奥まった場所にあったなら、それも難しかっただろう。


 幸運はもう一つあった。道中、魔物と一切遭遇しなかったことだ。これは推測になるが、ウィーウィルメックが原因だろう。生態系というものは一か所のみで完結しない。水辺周辺の生態系にも影響が出ている筈だ。となれば、事態はこちらが想像しているよりも深刻なのだろう。


 程なくして、水同士が打ち合う音を耳につくようになり、その音を辿ると開けた場所に辿り着く。

 滝壺―――ウィーウィルメックの棲み処だ。


 この間、オーグレディだけは徒歩、というより全力疾走での移動だったが、相変わらず息はほとんど上がっていない。何よりも恐ろしいのが、道中、全力疾走しながら遥か上空にいる普通に我々と会話をしていたことだ。風切り音がしていたのに彼女の声がはっきりと聞こえていた。


「はー、やっと出られました……」


 道中ずっと窮屈そうだったティタが、滝を前にして膝をつく。


「大丈夫か?」

「ええ。いつものことですので……」


 本人も気に留めていないようだったが、戦闘前だというのに、彼女の体にはそこかしこにかすり傷がついていた。

 彼女はここに至るまでに、その身一つでいくつかの細い木々を薙ぎ倒していたのだ。おかげで我々の背後には、新たな道が一本生まれていた。帰路は迷う事はなく辿れそうだが……


「……これはこれで生態系に何かしらの影響が出そうな気もする……」

「まー、あんま気にするこたないだろ。そもそもこの仕事も、他の生物が頂点気取りで生態系を守ろうってカンジでいけ好かないんだよな……」


 俺の呟きに応じたのはオーグレディだった。彼女は地面に荷物を下ろし、肩と手首をぐるぐると回して準備運動を行っていた。

 言動の割にはやる気満々だな、と感じる。

 ……何だか、今にも滝壺に飛び込んでいきそうだ。


「……オーグレディ…さん?」

「まぁこれも仕事だしな。勘弁してくれよっ!」

「ん!? オーグレディ!?」


 予想していた通り―――引き留める間もなく、オーグレディが武器も持たずに滝壺へ飛び込んでいった。

 そういえば、彼女はずっと素手だったが……まさか素手で戦おうというのだろうか。


 あたふたとする俺の隣で、ティタも同様に困惑していた。三人の中で唯一メドワーナだけは、やれやれと言いたげに…それでも慣れた様子で苦笑いしていた。


「ど、どうしよう……わ、わたしも入った方が良いですかね!?」

「ティタが入りゃ一発だろうけど……池の水全部無くなっちゃわないか!?」


 それでは本末転倒だ。池の嵩が減っては、生態系が崩れる以前に生物の棲み処が失われてしまう。滝壺なのでいずれは水量も戻るだろうが。

 何より、依頼には最低二十体を討伐とあった。ということは、この滝壺にはそれ以上の個体のウィーウィルメックが居るのだろう。巨人族とはいえ、それらを相手に水中で戦おうというのは無茶な話だ―――


 ……いや。じゃあ、オーグレディは……?

 俺はそのことと同時に、水面がうっすらと赤い色を帯びつつあることに気付いた。

 これは―――血の色だ。

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