勇者の目覚めは胸の谷間で ⑸

「……でも、言っておきますけど…元々そんなにお金持ってませんよ? それでも助けてくれるんですか…?」


 おずおずと尋ねてくる巨人の少女。既に行きがかりであるにも拘らず、未だに引き留めようとしてくる。


 少女は俺の背後にぴったりとくっついて、文字通りの低姿勢で腰を屈めているが、それでも沈んでいく西日を覆い隠す大きさで、俺の周囲に深く影を落としている。

 俺は彼女を見上げ、勇ましげに微笑んだ。


「見返りなんて求めてねぇよ。このままやられっぱなしじゃ気が済まないだろ?」


 …と、啖呵を切ったものの。

 本音を明かすと、見返りを期待しての行動ではあった。

 ただ、その見返りに欲しているのは金品ではない。


 俺に今必要なもの。それは、頼れる人間と、この世界についての知識だ。


 魔術が存在する世界のようだが、文明がどの程度進んでいるのか。この森の時点で盗賊が居るのであれば、治安はどの程度なのか。世界情勢はどうなっているのか。俺は何も知らない。

 彼女は田舎出身のようだが、それでも俺よりは遥かにこの世界について詳しいだろう。


 何より、彼女は巨人。条例で一般人には手を出せないと言われていたが、それはつまり彼女のような幼い少女ですら、強大な力を持っているからだろう。

 心強い戦力だ。戦わずとも、そこに居るだけで十分な抑止力になる。


 純粋に少女を助けたいという気持ちもあるにはあったが、主にはこういった打算的な理由だった。

 それと――


(若干の下心があるから―――とは言えねぇ…!)


 先刻、彼女のことを美少女と形容した。

 体こそ巨大だが、それを補って余りあるほどに顔立ちが整っているのだ。


「…何ですか?」

「……い、いや?」

「本当に何の見返りも求めてないんでしょうね…?」


 不躾に彼女の全身をじろじろと眺め入っていると、また身構えられてしまった。

 また吹き飛ばされかねない……深々と彼女の体に見入るのは控えておこう。

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