ガチムチ巨娘とムチムチ小娘 ⑽
「…とりあえずもう遅いし、寝るかぁ」
体に更に付着した砂埃を払いつつ、俺はこれからのことを考え始める。
まずは寝床だ。ティタも泊まれる宿を探さなければならないのだが……
「ここらへん、巨人の子も泊まれるような宿は……」
「無い無い! ここらへん田舎だし、巨人族なんてまず出入りしねーからな」
念の為オーグレディに訪ねてみるが、残念ながら想像通りの回答だった。
となると、今晩は野宿しかないか……
「それじゃ、私は野宿しますね」
と思っていると、俺よりも先にティタ自身がそれを提案した。
私は、という箇所に引っ掛かりを覚えていると、続けて彼女は「先生は顔さえ隠しておけば大丈夫でしょうし、行ってください」と笑って送り出そうとしてくる。
やはり彼女は自分だけ野宿をするつもりでいるようだ。
「は…って、まさかティタだけか? そりゃ危ないだろ。また襲われたらどうすんだ!」
「ここらへんなら町が近いので、盗賊も居ないと思うんですが……」
「いやでも……そういう問題じゃねー! とにかく、ティタがやるならオレも野宿な!」
「いや、でも……」
予想通り、ティタとの押し問答が始まった。
長期戦を覚悟していたが、その途中でオーグレディが会話に割って入ってくる。
「んじゃ、あたしも野宿!」
「うちも~。ていうか基本野宿だし」
彼女たちには町の宿で休んでもらおうと考えていたのだが、またも予定が狂ってしまった。
それに対し、ティタは申し訳なさそうな、でもどこか嬉しそうにはにかんでいた。どうやらそれを隠したいらしく、手の甲で口元を覆っているが、下から見れば丸見えだった。
そうと決まれば、野宿の準備だ。
町から少し離れた場所に移動し、まず焚火を用意する。
「えーと……巨人の嬢ちゃんはティタちゃんっつったか。枝を集められるか?」
オーグレディが頭上を仰ぐ。ティタは「はい」と礼儀よく返事をしてから、すぐそばの木の頭頂部を握って離した。バラバラと大量の小枝が落ちてくる。彼女の手の平が傷付いていないか心配になったが、目視できる範囲では傷一つ付いていない。
俺はしばらく呆気に取られていたが、オーグレディは特に気にも留めず、落ちてきた枝をかき集めた。足元に転がっていた手のひら大の石を打ち、いともたやすく枝に着火する。火起こしなんて、大人の男が道具を揃えてやっとだろうに。人間離れした技に感嘆する。
その傍では、メドワーナが巨大な荷物から調理道具を取り出し、料理の準備を始めていた。
メドワーナよりも大きなリュックから、その大半のスペースを占めているのではないかと疑うほど巨大な鍋を取り出す。人族から見ても十分に大きい。ティタからすれば小皿程度だろうが。
「あのぉ…オレお手伝いできることあります……?」
何もしていない自分がいたたまれなくなってきた。
俺の前でメドワーナは「えっとね~」とリュックに体半分を食われながら、食材や飲料水、調味料を取り出している。無尽蔵に出てくるのではないかと恐ろしくなっていると、やっとメドワーナが顔を上げてほっとする。包丁を抱えて出てきたので、別の方面の恐怖が湧き上がってきたが。
というわけで、俺は食材を切る係に任命された。オーグレディから借りていたマントを脱ぎ、近くの川で手を洗ってから作業に取り掛かる。
隣ではメドワーナが水を入れた鍋を火にかけ、調味料類を投入していっている。指定された順に具材を投入していくうちに、シンプルながら美味しそうなシチューができあがった。
完成品を目の前にして、やっと腹が鳴る。
そういえば、起きてから何も食べていないんだった。この状態から腹に入れるシチューは格別だろう。
メドワーナはもう空になったかと思われたリュックから三人分のお椀を取り出し、そこにシチューを注ぐ。ティタには良い器がなかったので、申し訳ないが取り分けた後に鍋ごと食べてもらうことになった。
「いただきます」と食事前の挨拶をすると、それを見たオーグレディとメドワーナが不思議そうに首を傾げる。スプーンで一口掬い、熱さにためらいながら口に運ぶ。
「…美味しい!」
想像通りだった。一言掻き込んで食べる。まさかシチューをここまでがっついて食べることになるとは思ってもみなかった。
他の三人に目を向けてみる。メドワーナはスプーンでちまちまと飲んでいて、オーグレディはなんと既に完食していた。ティタは鍋の熱が冷めるのを待っているのか、それともこちらに遠慮しているのか、膝に手をついて
「ティタちゃんの分が足りないと思うから、後でもっと作るね」
「え!? だ、大丈夫ですよ、これだけで! 食材なくなっちゃいます!」
「いーのいーの、いっつもレディちゃんが必要以上に食べるからいっぱいあるの! 今日は我慢してね」
「ちぇっ……だったらしゃーねーな」
二人に促され、ティタがおずおずと鍋に片手を伸ばす。「いてて」とは言いつつも、事も無げに素手で鍋を取った。まだかなりの高温だと思うのだが、多少の痛みを感じるだけで平気らしい。
そして全体にふうふうと息を吹きかけ、啜るような形でシチューを食した。
「うわぁ、おいしい……すごくおいしいです!」
目を輝かせ、歓喜の声を上げるティタ。目尻には涙を浮かべている。きっと、今の今までろくな食事を取っていなかったのだろう。
俺、オーグレディ、メドワーナは一度視線を交わしてから、しばらくの間、三人揃ってその姿を満足気に見上げていた。
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